ウィルベル精霊軍VSワイバーンの群れ
『ウィルたちの方に魔力の光が……』
『ワイバーンが引き寄せられるぞ!』
飛行していた精霊たちがウィルたちの行動とワイバーンの反応に気付いて声を上げる。
先頭を行くシュウは精霊たちの声に耳を傾けながら、真っ直ぐ前を向いていた。
「大丈夫だ! 勝算がなきゃ、周りの精霊が止めてる! それに向かったのは一部だ!」
彼らの前にもワイバーンが多数存在する。ブラックドラゴンの取り巻きのように飛行する一団である。
「あれを取り払わなきゃネルだって応戦できねぇ!」
『分かってる!』
シュウの引き連れた風の精霊たちは幼いながらも戦闘に長けた集団だった。すぐに気持ちを目の前の一団に向ける。
「突っ込むぞ! 遅れるなよ!」
『『『おうっ!』』』
シュウの合図で風の精霊たちが一気に速度を上げた。
精霊たちの接近に気付いた外周のワイバーンが顔を上げる。しかし、加速した精霊たちにそれは遅すぎた。
「アターーーーックッ!!」
攻撃魔法を発動した精霊たちがワイバーンの群れの隙間を縫うように次々と飛び込んでいく。すれ違いざまの猛攻がそのまま開戦の狼煙となった。
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ワイバーンの群れがゴーレムを目掛けて飛来する。
魔力光もさることながら、遠目にもその存在感はひしひしと伝わっていた。いきり立ったワイバーンの群れがそれを見逃すはずもない。
先行したワイバーン数匹が二発三発とゴーレムへ向けて火球を放つ。
ウィルはそれを真っ直ぐ見据えていた。
「ウィル、火球が来るわ」
少し落ち着かない様子でセシリアが告げる。
幼い我が子が対処法を誤れば火傷どころでは済まない。シャークティがいるから問題ないとは分かっていてもセシリアとしては落ち着けるはずもなかった。
見る見る火球が迫ってくる。
ワイバーンとの距離があるとはいえ、そこはワイバーンの射程圏内。容赦なく火球の雨を降らせてくる。
だが、ウィルは取り乱したりしなかった。
「ごーれむさん!」
ウィルの声に応えるようにゴーレムが小さく吼え、片手を持ち上げる。ゴーレムは飛来した火球を片手で軽々と受け止めた。障壁を張る素振りすらない。
ゴーレムが爆発の衝撃を後ろに逸らすことなく、全ての火球をはたき落とす。掌から煙が上がるが、それも僅か。風が吹き消した後には傷一つなかった。
「うぃるのごーれむさんにそんなはなび、きくもんか!」
最近覚えた言葉も使ってウィルが得意気に胸を張る。
「竜種の火球が花火扱い……」
「あはは……」
レンの言葉にセシリアが苦笑いを浮かべる。
プライドを傷付けられたのか、ワイバーンが威嚇するような鳴き声を上げた。
「うるさいなぁ……もぅ」
耳障りな鳴き声にウィルがムッとして杖を掲げる。
「ごーれむさん、やっつけるよ!」
ウィルの指示にゴーレムが反応して胸の前で組んでいた腕を空に掲げた。指先を真っ直ぐワイバーンの群れへと向ける。
「ウィル、一体何を……」
ワイバーンとはまだ距離がある。
不思議な態勢に入ったゴーレムにセシリアは首を傾げて我が子を見た。
普通の魔法ゴーレムならば、この距離からワイバーンをどうにかする術はない。
セシリアは先日の魔獣騒ぎでウィルの魔法ゴーレムが大活躍したと報告を受けていたが、それでも打つ手がないように思えた。
「ごーれむさん、おててまだんだ!」
「「「おててまだん?」」」
聞き慣れない言葉に大人たちが首を傾げる。
そんな大人たちの前にゴーレムを伝って登ってきた土の精霊がぴょんと飛び出した。
『説明しよう! ウィルの魔法ゴーレムには僕たち土の精霊の魔力が大量に詰まっている! 【おてて魔弾】とは、ゴーレムを媒体にその潤沢な魔力を利用してゴーレムの指先から大量の魔弾を撃ち出し続ける攻撃魔法なのである! よっしゃ!』
言い切った満足感から土の精霊の少年がその場でガッツポーズを決める。
一方、精霊の説明を理解したセシリアとレンは思わず頬を引きつらせた。
「ゴーレムを媒体にした魔弾を……」
「撃ち出し続ける……」
ゴーレムの指の先端に巨大な魔法の弾丸が次々と生成されていく。魔力を帯びたそれはゆっくりと回転し始めた。
『魔力回路、安定!』
『魔力出力、よーし!』
『照準、誤差修正! 目標、ワイバーンの群れ!』
土の精霊たちから上げられる報告を聞いてシャークティがウィルを見る。
「ウィル、いつでも行けるわ……」
「うん!」
促されてウィルが力強く頷いた。ウィルの目にも分かる強大な魔力を伴った石塊の魔弾が魔素の渦を巻く。
ウィルは杖で飛来するワイバーンの群れを指し示した。
「はっしゃー!」
ウィルの合図でゴーレムの指先から大量の魔弾がとめどなく吐き出される。一直線に飛翔した魔弾の雨が次々とワイバーンを貫通していった。
油断していたワイバーンの群れが慌てて進路を変えようとするが、もう遅い。
凶悪な弾幕を前に一匹、また一匹と力尽きて墜ちていく。
「ウィル、避けたワイバーンがそのまま突っ込んでくるわ!」
アジャンタの指差す先に大きく旋回してゴーレムに迫ろうとするワイバーンの姿があった。
「まかせて!」
ウィルはまた力強く頷いた。
「つちのせーれーさん、あつまれー!」
精霊に集合をかけたウィルが杖を振る。するとゴーレムの周囲の土が魔力を帯びて盛り上がった。
「だいちのかいな、われをたすけよつちくれのふくわん!」
ゴーレムを介して放たれた【土塊の副腕】が地面の土を吸収して構築される。大きさは普段ウィルの使用している副腕とは比べ物にならないほど大きかった。
「で、でかい……」
「まさか……」
規模の大きさにレンとセシリアが驚いていると、またゴーレムを伝って登ってきた土の精霊が大人たちの前に飛び出した。
先程と違って今度は小さな女の子だ。
『説明しよう! ウィルの魔法ゴーレムには私たち土の精霊の魔力がたくさん詰まってる。【土塊の副腕】もゴーレムを媒体にすることでゴーレムの副腕として生成可能なのである!』
きちんと説明できた精霊がかわいいドヤ顔を披露する。
その説明を聞いていたセシリアは心配そうな表情で頬に手を当てた。
「こんなに立て続けに大きな魔法を使って大丈夫なのかしら……」
『大丈夫! 私たちがついてるから!』
精霊の少女が胸を張って自信満々に答える。それを補足したのは黙って見守っていたライアだった。
『この場にいる精霊たちが手助けしているから精霊魔法として成立している。それにこの副腕の魔法はゴーレム生成の延長線上にある。確かに消費魔力はゴーレムより多いだろうが、精霊の魔力を借りている以上、今のウィルには問題ないだろう』
「そうですか。それなら……」
母として安堵の息の一つでも、と思ったが正直無理がある。こんな出鱈目な魔法を駆使する我が子を見て安心などできるはずがない。
そんな事は気にした風もなく、ウィルは魔法を組み上げた。三対六本の巨大な副腕が宙にそびえ立つ。
「いけー!」
ウィルの指示を受けた副腕がバラバラに飛んでいく。
狙いは弾幕を突破したワイバーンだ。拘束能力に長けた副腕は掴めば相手の動きを封じる事ができる。
ワイバーンが次々と副腕に捕らえられ、空中に張り付けにされていく。
六本全ての腕がワイバーンを捕獲し、動けなくなったワイバーンがギャアギャアと喚きながら腕を振り解こうと暴れ回る。
その様子を見たウィルの目がスッと細まった。
「わるいこには、おしおきだ」
ゴーレムの副腕がゆっくりと向きを変え、ワイバーンの頭が地面を向く。
「おすわり!」
ウィルが唱えると同時に副腕が全て急降下した。そのままワイバーンを地面に突き刺すように叩きつける。
轟音が響き、土砂が舞う。見守っていた大人たちが頬を引きつらせた。
沸き立つ砂埃が静まると、副腕の落ちた場所には頭を地面にめり込ませたワイバーンの柱が六つ、出来上がっていた。
「あとちょっと! ごーれむさん!」
ウィルの魔力にゴーレムが吼えて返す。両手から放たれていた魔弾が勢いを増した。弾幕が厚みを増し、突破を試みたワイバーンが次々と墜ちていく。
それでも強行突破を計ろうとするワイバーンがゴーレム目掛けて突っ込んでくる。
「おまえたちなんかにー!」
副腕がウィルの意思に反応してゴーレムの周囲に展開する。そして同じように指先をワイバーンの群れに向けた。
「まけるもんかー!!」
自力で魔法を繋ぎ合わせたウィルが副腕の指先に魔力を送る。
『任せろ、ウィル!』
『やーってやるぜー!』
ウィルの意思を汲んだ土の精霊たちがウィルの魔力に同調し、副腕に魔力を注ぎ込んだ。
「おててまだん!」
『フルパワーだー!』
「ふるぱわーだー!」
三対六本の副腕による魔弾を加え、ゴーレムがワイバーンを圧倒する。こうなってはワイバーンに成す術はない。
最後の一匹まで地面に落とされ、ワイバーンは完全に沈黙した。
「ふー」
ウィルがやり遂げたと言わんばかりに汗を拭う仕草をする。因みに汗をかいた様子はない。
地面に耳を当てていた土の精霊が顔を上げる。
『全ワイバーンの沈黙を確認!』
精霊の報告に他の精霊たちが歓声を上げた。完全勝利である。
『やったー! ワイバーンをやっつけたぞー!』
『ゴーレム、ちょーつえー!』
『今回のゴーレムに砲撃戦用の称号を与えよう!』
喜び合う精霊たちにウィルもひと息ついて頬を緩ませる。
だが、戦いはまだ終わっていない。
遠くの空では風の精霊たちが他のワイバーンの足止めを行っている。ブラックドラゴンも刻一刻と村へ近付いていた。
「なんと申しますか……」
あまりに圧倒的な戦果にトマソンも言葉がない。
横で同じ光景を見ていたレンも呆れて小さくため息をついた。
「私も竜種との戦闘を何度か経験していますが、こんな無惨なやられ方をするワイバーンは記憶にないですね……」
「レン……」
苦笑いを浮かべたセシリアとレンの視線の先には地面に突き刺さったままのワイバーンがいる。
「おそらくウィル様と精霊様が力を合わせれば城の一つや二つ、容易く落とせるでしょうな……」
「トマソン、冗談でもやめて……」
とうとう頭痛を覚え始めたセシリアにトマソンが頭を下げる。
だが、レンもトマソンも基本的に戦闘従事者だ。ウィルが強くなるのは喜ばしいことなのである。
それを知ってか知らずか、ライアとジーニは笑みを浮かべて見守っていた。
「かーさま!」
ウィルに呼ばれてセシリアが向き直る。我が子ながら凛々しい表情でこちらを見上げていた。
「うぃるはどらごんさんをやっつけにいきます!」
堂々と宣言するウィルに答えられなくて、セシリアがライアに視線を送る。
『大丈夫だ、セシリア……危なくなれば私がなんとかする』
「はい……」
しぶしぶ頷いて、セシリアは再度ウィルを見た。
その堂々とした姿は頼もしくもあり、当然心配でもある。いくらウィルが強くても、ウィルはまだまだ子供なのだ。
「ウィル……」
「かーさま、だいじょーぶ!」
その一言で安心するには無理がある。相手は魔獣最強と名高いドラゴンだ。
だが、ウィルは根本的なところを見誤ってはいなかった。
「みんなでちからをあわせれば、だいじょーぶ!」
圧倒的な結果に慢心することなく言い放つウィルにセシリアは折れた。
「……わかったわ、ウィル」
セシリアがウィルを安心させるように笑みを浮かべてをウィルの頬を撫でる。
「ただし、危なくなったらみんなの言うことを聞くこと。いいわね?」
「あい!」
力強く頷いてウィルが前を向き直る。
精霊たちもウィルの号令を今か今かと待っていた。
全員の視線が遠くを飛翔するブラックドラゴンに向けられた。
「ごーれむさん、どらごんさんまではしるよ!」
それはゴーレムに出す指示とはとても思えなかった。
だが、精霊たちは知っている。ウィルのゴーレムならそれが可能だということを。
ゴーレムが四肢に力を込める。同時に風の精霊たちが声を上げた。
「追い風準備!」
『魔法加速装置、出力最大!』
『進行方向、オールグリーン!』
カシルを筆頭に風の精霊たちが魔力をゴーレムに送り出す。ゴーレムを取り巻く緑光が輝きを増した。
土の精霊が移動の為、地面に沈み、誰も居なくなったことを確認した風の精霊からオーケーサインが出る。
「ごーれむさん、ごー!」
ウィルの合図にゴーレムが咆哮を上げ、地面を蹴る。一気に最高速へ到達し、凄まじい速度で景色が横を流れていく。
「ひっ……」
あまりの速さにセシリアが喉の奥でひきつった悲鳴を上げた。馬で走る速度など、比較にならない。
走り出したゴーレムは土煙を上げながら、ドラゴンに向かって猛然と突き進んでいった。




