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洞穴にて

 お世話になっております。綾河です。

「ウィル様は今日も魔法で遊んでいます。」をお読み頂き、誠にありがとうございます。

 11月3日より、「ウィル様」のコミカライズの連載が開始されることになりました。

 漫画はあきの実先生です。とても可愛いウィルや素敵なトルキス家の人々を是非とも楽しんで頂ければと思います。それでは。

 (*´∀`*)

 小さな崖にできた洞穴へ案内されたウィルはその中をキョロキョロと見回した。

 精霊たちから溢れる仄かな魔素が微かに中を照らしているのでウィルの目にも中の様子がよく分かった。


「なにもない……」


 確かに何もなかった。

 あるのは洞窟の壁と僅かばかり敷き詰められた草のみ。


「精霊の住処とはそんなものだ」


 ウィルの呟きを聞いたライアが小さく笑う。

 だが、その横でネルが不満げに眉をひそめた。


「あなたの住処には何も無さ過ぎですわ。偽りの情報を人の子に与えないでくださいまし」

「ふぇ?」


 ウィルが疑問符を浮かべてネルを見る。


「はいはい、それくらいにしましょう。この方たちを寝かさないといけないわ」


 フルラが洞窟の奥まで進んで掌に魔力を込める。

 柔らかな淡い緑色の光が洞窟の床に落ち、幻想的な草花を芽吹かせていく。

 瞬く間に二人分の寝床が完成してウィルが目を見開いた。

 精霊たちが運び込んだセシリアとレンを寝かせる。

 それを確認したライアがシュウに視線を向けた。


「それじゃあ、シュウ。何があったか説明してくれ。ウィルのことも詳しく」

「ああ」


 シュウは頷くと静かに話し始めた。

 ウィルが風の幻獣に認められ、自分たち風の精霊や土の精霊の間で噂になっている事。

 今日、山の上で人間が魔獣を使ってウィルたちに襲いかかっていた事。

 橋が崩れ、落ちてきたウィルたちを保護して川へ降り、そこでクララたちと合流してこの場所を目指した事。


「ウィルが私の姿を見れたのも、その幻獣の力か……」

「れびーていうのー」


 ウィルの横には話の途中で姿を現したレヴィが行儀よくお座りをしていた。


「レヴィ、な」


 訂正する者が不在の為、代わりにシュウが訂正してやる。


「人間たちの話じゃ、ウィルは目で魔力の流れを捉えられるらしいぜ? 俺たちが姿を隠してても見えるのはその力か、幻獣の力か……俺には分かんねぇ」

「そんな人間、聞いたこともありませんわ」


 シュウの言葉にネルが呆れたように嘆息する。

 ライアは思うところがあるのか、黙ったまま考え込んでいた。

 代わりにフルラがシュウに尋ねる。


「山に魔物が放たれたのも問題だけど……ウィルが襲われたのは、そのせい?」

「分かんねぇケド、違うんじゃねぇかな……ウィルの力は秘密にしてるらしいし……」

「その辺りは大人たちが起きてから聞いてみるしかないな」


 ライアが結論づけて視線をセシリアたちに向ける。

 草でできた寝床に花が一輪咲いている。どちらも淡く白い輝きを放っていた。


「命に別状はなさそうよ。ただ、奥の使用人は少し衰弱しているようだけど……」


 ライアが尋ねる前にフルラが答える。

 それを聞いてウィルがしょんぼりと肩を落とした。


「れん、うぃるたちをまもるためにどくに……」

「毒はクララが診てくれたから、大丈夫だと思うけど」


 シュウが付け足すとフルラは笑みを浮かべた。


「大丈夫よ。クララが診たのなら間違いないと思うわ」


 樹の上位精霊の太鼓判にシュウも胸を撫で下ろす。


「良かったな、ウィル」

「うん」


 シュウに頭を撫でられたウィルがこくんと頷いた。

 その様子を見たフルラが笑みを浮かべる。


「慣れないこと続きで疲れたでしょう? ウィル、飲み物を用意してあげるわね」


 そう言うと、フルラはまた手に魔力を込め、木で小さなコップを作り出した。

 続けて使用された魔法を見て、ウィルが目を見開く。


「おちゃまほー!?」

「…………?」


 予想外の反応にフルラを始め、精霊たちがウィルを見る。

 ウィルはガクガクと震え始めた。

 自分がバークにした事を思い出したのだ。


「どうした、ウィル?」


 ライアがウィルの顔を覗き込むとウィルは視線を泳がせながらもライアを見上げた。


「あれ、とってもにがいのー……」

「ああ、なるほど……」


 ウィルの言葉に納得したフルラが小さく笑った。


「失敗したのね」

「しっぱいしましたー」


 ウィルが昨日使ったお茶の魔法を説明するとフルラは少し驚いた顔をした。


「初めての魔法でちゃんと飲める物が出せるなんて凄いわ」

「そういうものなのか?」

「失敗していたらとても飲めたものじゃないわ。浄化もされないし」


 不思議そうに尋ねるライアにフルラが嬉しそうに答える。

 しっかり浄化されていた為、ウィルの魔法はほぼ成功していたと言えるようだ。味はともかく。


「ウィルの言うお茶魔法は結構難しいのよ? 付加される効果の選定に薬草の知識がいるし、決まった詠唱もないし……魔力の操作だけでも相当難易度高いのよ?」


 上機嫌に説明するフルラ。

 どうやら自分の属性を高いレベルで使いこなすウィルにご満悦だ。

 笑顔のフルラからコップを受け取ったウィルが中に満たされた液体とフルラの顔を交互に見る。


「にがいー?」

「少し、ね。でも、味の調整はしてあるし、ウィルはとても気にいると思うわ」


 自信有りげなフルラに後押しされて、ウィルは意を決してコップの液体を少し飲み込んだ。

 我慢できないほどではなかったが、液体は確かな苦味をウィルの舌に伝えてきた。


「……にがいー」


 渋い顔をするウィル。

 だが、それも次の瞬間には驚きに変わっていた。


「まそが……」


 ウィルの周りを巡っていた魔素が目に見えてウィルに吸収され始める。


「今飲んだお茶は魔力の回復を早めるのよ」

「おー……」


 フルラに説明されたウィルが自分の体を確認するように見回す。

 少しすると魔素の吸収量が元に戻った。


「魔法のお茶の効果時間は短いわ。しっかり癒やすためには魔法ではなく正しい薬草を調合して飲まなければいけないことも覚えておいてね?」

「あい……」


 ウィルが頷いて、もう一度お茶を飲み、また渋い顔をする。


「にがいー」

「苦かったら飲まなければよろしいのですわ」


 繰り返し渋い顔をするウィルにネルがそう言うとウィルは笑顔でネルを見上げた。


「えへへー」

「なんですの?」

「まそがね、すーって」


 自分の中に吸収される魔素を表現したのか、身を小さくするウィル。


「それにおちゃまほー、おぼえたもん」

「あらあら」


 ウィルの自信に今度はフルラが口に手を当てて笑った。


「そんな簡単に魔法を覚えられるのなら、誰も苦労しませんわ」


 ネルが呆れ顔で肩をすくめる。

 それを見たウィルが小さく頬を膨らませた。


「ほんとだもん! らいあのやみまほーもおぼえたもん」

「だったら、私もすんごいのを見せて差し上げますわ。真似できまして?」


 ネルからすれば、それはできると言い張るウィルに当てつけるような軽い気持ちであった。

 できるものならやってみなさい、と。

 しかし、ネルの言葉を聞いたウィルは一転して目を輝かせ始めた。


「ほんと!? ねるのすごいの、みせてくれるの!?」

「えっ? ええ……」


 ネルがしがみつくような勢いのウィルに気圧されてコクコク頷く。

 それを見たウィルが表情を綻ばせた。


「みたい! ねるのすごいの!」

「そ、そこまで言われましては……悪い気はしませんわ」


 照れたように視線を逸らすネル。

 どうやらおだてられるのに弱いようだ。


「分かりましたわ! でしたらとっておきの魔法を見せて差し上げましょう! 真似をできるものならなさりなさい、ウィル!」

「あい!」


 ネルがその場で立ち上がり、ウィルが元気よく手を上げて応える。


「おいおい……」


 自分の寝床で盛り上がるウィルたちにライアは呆れたような表情を浮かべ、フルラとシュウも苦笑いを浮かべた。


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