たいへんなウィル
明日6月15日発売の「ウィル様は今日も魔法で遊んでいます。」ですが、コミカライズ企画も進行中です♪
コミカライズの詳細も順次お届けできるように頑張ります。
まずは明日、たくさんの人にウィルをお持ち帰り頂けると嬉しいです。
「ようこそお出でくださいました」
表情を綻ばせたセシリアに出迎えられたドナテロはばつが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「申し訳ございません。お忙しい中……」
「うふふ。気になさらないで下さい」
セシリアは笑顔で応えると、ドナテロとアーガスの足元にいた少女たちの前に屈んだ。
「いらっしゃい、お名前は?」
「てぃふぁです……」
「らてりあ……です」
やや緊張した面持ちで応えるティファとラテリア。
セシリアも前回ティファと会った時は避難者と負傷者の対応で忙しく、話すのは今日が初めてだ。
「ティファちゃんとラテリアちゃんね。私はセシリアよ」
「あ、あの……」
なんとなく、セシリアがウィルの母であることを察したティファがおずおずと尋ねる。
「うぃるさまは……?」
「……ふふっ。ウィルは中庭にいるわ。昼食会が始まるまで一緒に待っててもらえると助かるわ」
「ほんと!?」
セシリアの言葉にティファは表情を華やかせ、ドナテロは驚いたような顔をした。
「セシリア様、我々は偶然用向きがあっただけでして……」
「あら? この後、ご用事でも……?」
遠回しに誘いを辞そうとするドナテロにセシリアが首を傾げてみせる。
「ありませんね」
ドナテロがなにか答えるよりも早く、お付きのルカエがぴしゃりと答えた。
「お、おい……」
「ありません」
戸惑いの声を上げるドナテロにルカエがじとりとした視線を向けて、再度答える。
ルカエもこの場が貴族としての正式な場であったなら無茶を通す気はない。
が、この場はそうではなく、セシリアも心からティファの参加を歓迎してくれている。
(一緒に居合わせたラテリアちゃんが参加できて、ティファお嬢様が参加できなかったらティファお嬢様が傷つくと、なんで思わないんですか?)
鈍感な主を視線で咎める使用人に既視感の湧いたセシリアが思わず笑みを溢した。
当然、セシリアもそのことに気付いていてティファを招き入れている。
だから、ドナテロがノーと答えてもティファだけは預かるつもりでいた。
「や、妻を待たせていますので……」
「それでは奥様も是非ご一緒に」
セシリアにそう言われてしまってはドナテロに返す言葉はなく――結局、一家で昼食会に参加することになった。
「エリス。ティファちゃんとラテリアちゃんをウィルのところまで案内してあげて」
セシリアが傍にいたエリスを呼び止め、二人を案内させる。
ルカエはドナテロの夫人を呼びに行くことになり、その後ろ姿を見送ったドナテロは深々とため息をついた。
「まぁ、その……気にすんなよ」
「ああ……」
なんだか立場の弱いドナテロを気遣ったアーガスがその肩を叩き、彼らはセシリアの案内で集まった者達のところへ赴いた。
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「はっぴょーかい、するのー?」
「ええ。ウィル様に皆の前で魔法を使って欲しいんです」
マイナの願い出にウィルは笑顔を浮かべた。
嬉しそうになんの魔法を皆に見せようか思案し始める。
「まいなー、なにがいーい?」
「そうですね……ガイオス様をおてての魔法で捕まえるのはどうでしょう?」
「わかったー♪」
マイナが提案するとウィルは満面の笑顔で応えた。
皆に魔法を見てもらえることが嬉しくて仕方ないらしい。
とってもゴキゲンだ。
こっそりと悪い笑みを浮かべているマイナに気付きもしない。
そんなやり取りをしているとエリスが姿を現した。
「ウィル様、お友達が来てくれましたよ」
「おー♪」
ゴキゲンなウィルが振り返るとエリスの後ろからウィルと同じ年頃の女の子が二人ついてきていた。
まるで決戦の地に赴くかのような真剣な眼差しをした二人の女の子が真っ直ぐウィルの方へと歩いてくる。
「おー……」
気圧されたウィルの声のトーンが下がった。
「あら、ラテリアちゃんとティファちゃんね」
「いらっしゃい。良かったわね、ウィル」
二人を見知るセレナとニーナがラテリア達を招き入れると二人はウィルの前に立った。
「「「…………」」」
無言の三竦みを披露するウィル達に周りの者たちが苦笑する。
傍目からは二人の雰囲気に押されたウィルが少し怯えているように見える。
「仲良く、待っててくださいね?」
エリスが静かにそう告げてようやく、ラテリアとティファがハッとなった。
二人してルカエに言われたことを思い出したのだ。
仲良くしないとウィルに嫌われてしまう、と。
ラテリアとティファはお互い視線を交わすと頷き合った。
(はんぶんこ……)
(はんぶんこね……)
そんな見事なアイコンタクトの末、少女たちはウィルの両脇に移動してその手を取った。
ウィルのはんぶんこがここに成立した。
「そうそう、それでいいんですよ」
「みんな仲良く、ね」
満足したようにエリスとマイナが頷くとラテリアとティファの顔にもようやく子供らしい柔らかな笑顔が浮かんだ。
一方、何がいいのかさっぱり分からず、ぽかんとした顔をするウィル。
そんなウィルの表情にエリスたちが思わず吹き出した。
「そのままだと動きづらそうですし、端っこに座って待ってましょうか」
エリスが提案してマイナが子供たちを誘導する。
「…………? …………?」
一人混乱の世界に旅立ってしまったウィルはラテリアとティファに手を引かれるまま、中庭の縁側に向かって歩き出した。
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「やぁ、マエル先生」
見知った顔を見かけたアーガスが声をかけると年老いた治癒魔法使いは人懐っこい笑みを浮かべた。
「ごきげんよう、アーガスさんに奥さん。それと……」
「ドナテロと申します、マエル先生。お噂はかねがね……」
視線を交したドナテロが頭を下げるとマエルはほっほと笑って髭を撫でた。
「なに、ウィル様ほどではありませんよ」
「またまた……」
苦笑するドナテロ。
ドナテロの知る限り、マエルほど優秀な治癒魔法使いはいない。
そんなマエルでさえウィルの名前を引き合いに出すことにドナテロは正直驚いた。
もっとも、治療院でウィルと接する機会が多く、ウィルのことをよく知るマエルにとっては不思議でも何でもない事だったが。
「調子はどうだ? ジェッタくんにメアリーちゃん」
アーガスが二人に声をかけると二人はペコリと頭を下げた。
「順調ですよ。もう車椅子も必要ないかな、と」
「最近は義足の感触にも慣れたみたいで……」
ジェッタに寄り添うメアリーを見て、アーガスが笑みを浮かべる。
トルキス家に避難していた時のような暗い影も今はない。
アーガスもジェッタもあの騒動で体の一部を失ったものの、ウィル達のお陰で普段通りの生活を送れている。
それどころか、ウィル達の造った魔法の義手や義足の技術がフィルファリア王国に譲渡された為、その経過観察の対象として二人は十分な待遇を国から受けられることになったのだ。
「良かったな」
「はい」
アーガスの言葉にメアリーがにっこり微笑んだ。
あの日起きたことが消え去るわけではないが、それでも今ある未来はあの頃メアリーが想像したものより随分いいものだ。
アーガスとしては自分のことでもあるが、メアリーの笑顔を取り戻したウィルに感服するほかない。
「皆さん、お揃いで……」
しばし談笑していると遅れてシローがガイオスとカルツ、ヤームを引き連れて姿を現した。
「げっ! ジェッタ、メアリー!」
リリィのお付きである二人を見るなり周囲の警戒を始めたガイオスにジェッタ達が苦笑する。
「今日は二人ですよ、ガイオス様」
「義手と義足のご縁で……」
「ああ……そうだったな」
メアリーとジェッタが交互に説明すると、落ち着きを取り戻したガイオスが申し訳なさそうに頷いた。
ガイオスはリリィと幼い頃からの馴染みだ。
そしてジェッタもメアリーも古くからリリィのフォランド家と関わりがある。
ガイオスも二人とは古くからの知り合いであり、ジェッタの怪我に心を痛めた一人だった。
それを横目で伺っていたシローが小さく嘆息する。
「さて、そろそろ始まるかな?」
見れば門の方から【大地の巨人】のメンバー達も集まってきており、セシリアもこちらに近付いてきていた。
おそらく子供達も――
「「「…………ん?」」」
姿を現した子供達を見た大人達が眉根を寄せる。
子供達の中心にいるウィルが両腕をラテリアとティファに掴まれて歩いてくる。
嬉しそうな少女たちとは対象的にウィルは困惑しており、為すがまま引きずられているように見える。
「こらこら、ラテリア。ウィル様が窮屈そうじゃないか」
「そうだぞ、ティファ。少し離れなさい」
アーガスとドナテロが注意すると、視線を交わしたラテリアとティファがちょっとずつウィルを解放し始めた。
二人がウィルから離れると緊張からも解放されたのか、ウィルが大きく息をついた。
「ご苦労様ね、ウィル」
「はうー」
笑みを浮かべて労うセシリアにウィルは気の抜けた返事をすると困った顔でセシリアを見上げた。
「かーさまー、おんなのこのあいてってたいへんー」
思ったままを口にするウィルの言い様に大人達は思わず吹き出した。
セシリアも口を抑えて笑い、大きく息をつく。
ウィルはくたびれた様子でそんな大人達を不思議そうに見上げていた。
「そういうものよ、ウィル」
「そっかー」
セシリアが大任を果たしたウィルの頭を優しく撫でるとウィルは納得したように応えてセシリアの手に身を任せた。
「ふふっ……」
微笑んだセシリアがウィルから手を離し、視線をメイドたちの方へ向ける。
準備していたメイドたちがその合図で集まった者たちに飲み物を配り始めた。
全員の手に飲み物が行き渡ったのを確認してセシリアが話し始める。
「皆様、本日はお集まり頂き、誠にありがとうございます」
大人も子供も注目する中、セシリアは優しく笑みを浮かべた。
「少し早いですが昼食会を始めたいと思います。皆様、楽しんでいってくださいね」
セシリアから目配せを受けたシローが頷いてコップを高く掲げる。
「それじゃあ……乾杯!」
「「「乾杯!」」」
全員が揃ってコップを掲げて唱和して、トルキス家での楽しい昼食会が始まった。




