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昼食会当日

 いつもご愛読ありがとうございます。

 今更ながら、お読み頂いております「ウィル様〜」ですが【第七回ネット小説大賞】におきまして期間中受賞致しました。ただいま大賞特設サイトにて応援期間中となっております。

 また、書籍の販売が2019年6月15日、書影も公開されております。(イラスト担当ネコメガネ先生の超かわいいウィルが見れます)是非、書店で並んでいるのを見かけて頂ければと思います。

 サーガフォレスト四周年フェアの対象にもなっていますのでwonderGOO様ですとウィル様の限定SS小冊子が貰えます(なくなり次第終了)

 大賞の応援と共に、これからもよろしくお願いします。

 その日は朝からメイド達が忙しなく動き回っていた。

 暦上の休日――つまり、今日は昼食会なのである。

 セシリアやターニャ、メイド達はその準備の仕上げに奔走し、子供達の監督は年長者のセレナやバークが見ていた。


「どこ行きましょうか?」

「なかにわー!」


 セレナの問い掛けにウィルが手を上げて答える。

 大きな庭は昼食会の会場になっている。

 特に行く宛もなく、子供達はウィルの提案に乗って中庭へ出た。


「おー?」

「どうしたの、ウィル?」


 先んじて中庭へ出たウィルが何かを見つけて立ち止まる。

 後に続いたニーナがそれを見て納得した。


「ルーシェさんがまた倒れてる……」

「いや、心配しようよ……」


 のんびりした感想を述べるニーナにバークが思わずツッコんだ。

 セレナも後ろから呑気な様子で口に手を当てている。


「おーい、まだ終わりじゃないぞー? 立て立て」


 対峙していたのであろうジョンが木剣で肩を叩いて呆れたように呼び掛ける。

 するとルーシェはピクリと反応して顔を上げた。


「怪我したの?」


 ラティが首を傾げるとジョンが首を横に振った。


「いーや、バテてるだけですよ」

「うう……」


 短く呻いてルーシェが身を起こす。

 雇われる事になって以来、ルーシェは使用人達が手すきの時に武術指導を受けているが、まだ数日。

 ついていくのがやっと、という有様だ。

 なんとか食らいついてはいるようだが、毎日力尽きては中庭に倒れていた。

 そんなルーシェにウィルが歩み寄って顔をのぞき込んだ。


「るーしぇさん、だいじょーぶー?」

「ええ……ウィル様……」

「るーしぇさんがんばってるからごほーびあげるねー」

「…………?」


 荒い息を吐きつつ顔を上げるルーシェにウィルが杖を構えた。


「きたれつちのせーれーさん。どじょーのげきれい、なんじのりんじんをもてなせつちのさんか!」


 ウィルの杖先から光が溢れ、それを吸い込んだ中庭の土がルーシェの足元から大量の光の粒を舞い上げた。


「「「わぁ……」」」


 一同がその光景に感嘆し、ジョンが口笛を吹く。


「あ……」


 何かに気付いたルーシェがゆっくりと立ち上がる。

 体が軽い。

 先程までの疲労がかなり回復していた。


「ウィル、そんな魔法いつの間に覚えたの?」


 驚いたセレナが尋ねるとウィルは嬉しそうな笑みを浮かべた。


「いつもるーしぇさん、たおれてるからー。かーさまにおしえてもらったー♪」

「お母様に?」

「そー。げんきになるまほーなんだってー」

「へー」


 セレナが感心したような声を上げる。

 土のエネルギーを変換して取り込み、疲労を軽減する魔法だ。

 体の動きを確かめて木剣を握り直すルーシェにジョンが笑みを浮かべた。

 ルーシェのやる気に陰りがないのを見て取って純粋に喜んでいるのだ。


「よし、ほら! もういっちょ来い!」

「お願いします!」


 ジョンが二本の木剣を高く構え、ルーシェがその懐に踏み込んでいく。

 ルーシェが振り下ろした木剣をジョンが左手の木剣で弾き、間髪入れず右手の木剣を薙いだ。


「フッ!」


 更に踏み込んだルーシェが左腕に装備したラウンドシールドで弾く。


「そうだ! しっかり弾け! 受け止めるんじゃねぇぞ!」


 小型の盾は軽量で取り回しがし易い分、どうしても遠距離攻撃に弱くなってしまう。

 足を止めると軽量の良さが消えてしまうのだ。

 素早く打ち合う二人の姿を子供達が食い入る様に見守る。

 すると、盾を前面に構えたルーシェが体ごとぶつけに行った。

 ジョンがそれを両手の木剣を交差させて受け止めた。


「だめだ、そんな当たりじゃ!」

「わぁっ!?」


 拮抗するのかと思いきやルーシェが後方に弾かれて、そのまま尻餅をついた。


「うーん……どーも上手く行かんなぁ」

「す、すいません……」


 ジョンが頭を掻きながらルーシェを見下ろす。

 ルーシェは膝を付いたまま荒く息を吐いた。

 その様子を見たウィルがルーシェに駆け寄って疲労回復の魔法を施し、また走ってセレナ達の下に戻ろうとして――


「あっ!」


 ウィルが何かに気づいたような顔をしてセレナ達の前で固まった。


「どうしたの、ウィル?」


 不思議に思ったセレナが首を傾げるとウィルは表情を変えずにセレナ達を見上げた。


「これならるーしぇさん、ずっととっくんできるー」

「…………あー」


 それはやっちゃいけないやつだ。

 ウィルの言葉に一瞬キョトンとしてしまったセレナが脱力したように苦笑いを浮かべる。

 いくら疲労を回復したからといって悪戯に修練を積み重ねても集中力がともわなければ効果は薄い。

 どころか、型が崩れて悪影響を及ぼす可能性すらある。

 セレナがその事をなんとかウィルに伝えようと言葉を選んでいると、視線の先で立ち上がったルーシェとジョンがまた打ち合いを始め、子供達がそれに注目した。

 決められたようにルーシェが木剣を振り下ろし、ジョンがそれを受け、交代でジョンが薙ぎ、ルーシェがそれを弾こうとラウンドシールドを持ち上げて――


「あっ……!」

「ポゲラッ!?」


 弾けずに素通りした木剣がルーシェの顔面に直撃した。

 致命傷だ、本番ならば。


「おー……」


 ひっくり返るルーシェを見たウィルが思わず声を漏らす。


「集中切れちまったな……今日はこんくらいにしとくか?」

「ふぁい……」


 頭を掻きながら尋ねるジョンにルーシェが顔を抑えたまま力なく答える。

 その様子を見ていたウィルは目をぱちくりさせると、次いでセレナの顔を見上げた。


「せれねーさま、ずっとはあぶないです」

「ええ、そうね。程々にしなくちゃね」

「ほどほどがいーです」

「そうよ、ウィル。お姉ちゃん、ウィルが自分で気付いてくれて嬉しいわ」

「いやいや、ルーシェさんの心配しようよ」


 学習する弟の頭を撫でるセレナ。

 その横で呑気な姉弟のやり取りを見ていたバークは思わずツッコミを入れた。



▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



 ドナテロという男がいる。

 三十そこそこのその男は商売に才覚を見出し、仕事熱心で周囲の信頼も厚く、若くして王都レティスの商工会ギルドでも顔が効くほどの人物だ。

 そんな彼だが、最近少し気にかかっていることがある。

 愛娘の事である。

 先日起きた外周区での魔獣騒ぎの際、ドナテロは市街区にある自分の店におり、手伝いに来ていた妻や使用人達ともども難を逃れた。

 しかし、彼の娘や幼い息子、メイドの一人は外周区にある自宅に取り残されてしまったのだ。

 メイドの判断で辛くも窮地を脱した娘達であったが、その頃から娘のティファの様子が少しおかしいのだ。

 どのようにかというと――


「うぃるさま、どっちのりぼんがすきかなぁ?」

「あぅー」


 最近ようやく一人座りができるようになった弟に疑問を投げかけるティファ。

 その姿にドナテロは眉をひそめた。


「どーおもうー、れおー? うぃるさま、どっちがすきかなー?」

「だぅー」

「そーよねー、こっちかわいーもんねー」

「だー」


 こんな具合である。

 なにかにつけてウィル様ウィル様と言うのである。

 もちろんドナテロもトルキス家の長男であるウィルベルの事は知っている。

 仕事上、色んな立場の人間と会う彼はその評価についても聞き知っていた。

 曰く、「レティスに舞い降りた天使」だの「天使の顔した悪魔」だの「安全弁の外れた発火魔道具」だの、枚挙に暇がない。

 否定的な評価も聞かれたが、大抵は良い噂を聞かない者たちばかりで多くの者には受け入れられている。

 でなければ、娘と変わらぬ歳の子供が大人達の間で噂される筈がない。

 きっとシローやセシリア、使用人達から愛情を注がれてまっすぐ育っているのだ。

 とはいえ、である。

 男親として娘の口から他の男の名前を聴くのは心中穏やかではない。

 それが例え良家の子息であったとしてもだ。


「おのれ、ウィル様……」

「子供部屋の前で何をなさっておいでなのですか、旦那様……」


 戸の隙間から中の様子を窺うドナテロを見たメイドが呆れたように目を細める。

 その後ろに控える夫人も同じく呆れたようにため息をついた。


「こ、このままではウィル様にかわいいティファを取られてしまう!」


 狼狽える主人に夫人とメイドが頭を抱えた。


「旦那様、お嬢様くらいのお子様ですと仲のいい者はみんな好きになりますよ?」

「そうは言うけど……」


 ドナテロが寂しがるのも無理はない。

 夫人もそれが分からなくはないが、少々度が過ぎている。

 それに、普通に考えれば娘の交友関係が広がるのはいい事だ。


「もういいわ、ルカエ……例の物を取って来てくれる?」

「奥様……畏まりました」


 ルカエと呼ばれたメイドは一礼するとその場を去った。

 夫婦二人っきりになり、夫人がドナテロをひと睨みする。


「あなた……?」

「うっ……」


 メイドの前でみっともないところを見せてしまったドナテロへの無言の圧力だ。

 と、そこへ廊下の騒がしさに気付いたティファが顔を覗かせた。


「おかーさま、どうしたのー?」

「なんでもないのよ、ティファ。少し様子を見に来ただけ……」


 そう言うと夫人はティファの頬を撫でた。

 それから屈んで娘の顔を覗き込む。


「ティファ、申し訳ないのだけれど……お父さんとルカエと一緒にお使いを頼まれてくれないかしら?」

「…………?」

「ウィル様に会えるわよ?」


 不思議そうにしていたティファだったが夫人の一言で表情をみるみる綻ばせた。


「ほんと!?」

「ええ、ホントよ」

「おいおい……」


 盛り上がる母子にドナテロが待ったをかけるが、夫人が視線でそれを制した。


「あなたは、私の用意した手土産を持って、セシリア様にティファの件でお礼を言いに行くの! 分かったわね?」

「…………はい」


 妻に気圧されて、ドナテロは渋々承諾した。



 手土産を持ったルカエを伴って、ドナテロとティファは家を出た。


「はやく、はやく!」

「お嬢様、慌てなくてもウィル様は逃げたりしませんよ」


 急かすティファのはしゃぎっぷりにルカエが笑みを浮かべる。

 待ちきれないティファはドナテロの手を取って引っ張り始めた。


「おとーさまー! はーやーくー!」

「ははっ! こらこら……」


 甘えた素振りを見せるティファにドナテロも満更ではない。

 こうしてティファと歩くのも久し振りだ。

 これで目的が娘の夢中になっている男の子の家に赴く事でなければなおいいのに、と思わずにはいられないドナテロであった。

 そうして、三人がトルキス邸の前までやってくると反対側からやってきた親子とばったり出くわした。


「あれ……? ドナテロさんじゃねーか」

「こんにちは、ドナテロさん」

「おお、アーガス君に奥さん、それにラテリアちゃんも。お揃いで」


 旧知の鍛冶師一家にドナテロは驚いた。

 アーガスは先日の魔獣騒動で片腕を失い、その後、見たこともない魔道具で義手を作ったと噂になっていた。

 今もその土の義手を装着しており、その反対側の手を幼い娘と繋いでいた。


「ドナテロさんも呼ばれたのか?」

「何の話だい?」


 全く身に覚えのないことにドナテロが首を傾げる。


「いや、今日はシロー様のお屋敷で昼食会を催すという事で誘われたんだが……」

「なんと……」


 間が悪いことに行事とバッティングしてしまったらしい。

 まぁ、用といえば持参した手土産を渡して礼を伝えるくらいだ。

 長居する程の用もなく、滞在も出来ないのであればドナテロとしては都合がいい。


「それは知らなかった。私はたまたま、娘を助けて頂いたお礼を言いに来ただけで……」


 隠す事なく要件を伝えたドナテロがアーガスと近況を報告し合う。

 商売人としてはこうした横の繋がりはとても大事なのである。

 大人達が世間話をする一方で、手を繋いだままの子供達も顔を突き合わせた。

 ティファとラテリア――

 二人の視線が交差する。

 お互い閃くものがあった。

 閃きは暗雲立ち込める草原へと変じて、警報全開の稲光が双方を照らし、彼女らの気迫はウサギとリスに昇華した。


「どうした、ティファ?」

「おい、ラテリア?」


 動かなくなった娘達に父親達が問いかける。

 不思議そうに首を傾げる大人達をよそに少女達のカンは相手の脅威を如実に伝えていた。

 幼くとも女、ということなのだろうか。

 そんな二人の心中に気付いたのは同じ女であるルカエとラテリアの母だけだった。


「はいはい、二人ともそこまでです。そんな事じゃウィル様に嫌われちゃいますよ?」


 ルカエの言葉に少女達がピクリと反応し、その時間が動き出す。

 が、今回は昼食会に呼ばれた者とそうでない者とで勝敗は分かれそうであった。


「それでは参りましょうか、旦那様」

「さぁ、あなた。ドナテロさんも」

「「あ、はい……」」


 仕切って前を歩き出す使用人とアーガスの妻に促されて、曖昧な頷きを返したドナテロとアーガスは顔を見合わせて肩を竦めた。


ps.書店で「ウィル様〜」をお手に取って頂いた場合、可及的速やかにレジへ持って行って精算して頂いた後、カバンへ入れても誰も怒らないと思います。思います。以上。

((*_ _))ペコリ

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