覗キ部屋
人の怨念や恨みとは死後も世界に残ると言われます。
想いや、やり残した事が念となり、この世に残るのです、霊とは意識であり、肉体滅びた後も意識として残る…そう聞いた事があります。
これからお話しするのは、ある年の暮れ…冬も寒さを増した聖なる夜、クリスマスの日に起こった実体験です。
よく友人達と肝だめし企画を企て関東にある心霊スポットを巡っていました。霊感の強い佐藤さんと私は、よく友人達に連れまわされ悲惨な体験や経験をしています。
そんなメンバーと、"たまには普通に集まって楽しもうよ"とクリスマスパーティーをやったんです。
肝だめしの時に先導を切って車の運転をしてくれる眞鍋さんの家に4人のメンバーが集まり、私と佐藤さん、眞鍋さん、中田さんと心霊スポット巡りでは必ず一緒になるメンバーでした。
眞鍋さんのお宅は、辺りは静かな住宅街のマンションで、一階の2LDKの角部屋でした。
玄関入口すぐ隣に台所があり、台所前には小さな小窓がありました。部屋に入った時に"何だか夜は玄関に近寄りたくないなぁ"って入った時に思ったんです。
奥の部屋に集まり台所がある部屋を、あえて遮断し別の空間とするかの様に眞鍋さんは襖を閉めました。
やっぱり心霊スポット巡りをしているメンバーですから以前行った、関東某所にあるKトンネルの出来事や他のスポットの話で盛り上り話に華を咲かせていました。
するとおもむろに眞鍋さんが立ち上がり、本棚からアルバムを一つ取り出して小さなテーブルに広げたんです。
『これ、心霊スポット巡りで撮ってきた写真、意外とお前等見てないだろ?』
と眞鍋さんは微笑みながらペラペラとページを捲り始め
『あ、これって〇倉じゃね?』
と、中田さんが言うと
『あん時はヤバかったよな…車止まったりさぁ、写真撮んのにシャッター下りなかったりさぁ』
と怖い体験をしながらも今は"思い出"なっている"過去"の話にも華を咲かせていました。
眞鍋さんや中田さんは知らないでしょうが、霊感のある私と佐藤さんは次々と捲られるページの心霊写真を眺めながら目を伏せたり、右手首に付けてある数珠を握ったり、過去ながらも写真という形で残ってしまった現在を、振り払う様に耐えていました。
そして、だいたい深夜1時を過ぎた頃…
『トイレ行ってくるわ』
と中田さんは陽気に襖をあけ玄関左にあるトイレに向かいました、それを待っていたかの様に、眞鍋さんは少し怯えた様子で佐藤さんに訪ねたんですよ。
『なぁ…ここって、何にも感じないか?』って一言。
正直びっくりしました、眞鍋さんは心霊スポット巡りでも必ず先導を切って行動し、更に暗い夜道を車で運転してくれる兄貴的存在で、そんな方が怯えている様子なんて初めて見ました。
すると訪ねられた佐藤さんはおもむろに答えたんです。
『何時頃?』って…。
最初は何訳のわからない返答をしてんだろって思ってました。
いくら霊感のある私でも、佐藤さん程に強くは無くて、せいぜい見たり聞いたり危険を多少察知する程度の能力しかありませんから、異変になんか気付かないのは当たり前だったのかもしれません。
しかし佐藤さんは、両親共に霊感が強く、生まれ持っての高い霊感の持ち主であり今では除霊等も出来る存在でしたので、きっとマンションに着いた時点で多少気付いていたと思います、いや…もしかしたら多少前から気付いていたのかもしれません。
そして眞鍋さんは、佐藤さんの言葉に"やっぱり"と恐怖を隠しきれない顔で
『それがな…』と答え様とした時に始まりました。
ピンポーン…
シーンとした住宅街ですから誰かが来たら足音が響きわかるはずなんですよ普通は…それに、こんな真夜中に何の前触れもなくただ…
ピンポーン…
深夜をまわっている時間に呼び鈴が鳴ったんです。
中田さんはトイレに居たので、わかりませんが、他の3人は何とも言えぬ恐怖を感じました。
すると佐藤さんはゆっくり立ち上がり襖を開け一人で玄関に向かい、そっと覗き窓から外を覗いた時、ピタッと動きが止まったんです、それと同時に中田さんがトイレから出て来て
『こんな時間に誰?』
とノンキに佐藤さんに訪ねた時
『ヤバいな…』
と佐藤さんは言うと、ノンキな中田さんを強引に引っ張り部屋に戻り襖を閉めました。
元居た場所に座り佐藤さんは眞鍋さんに訪ねました。
『いつから?』っと…すると眞鍋さんは
『引越ししてから…だいたい1週間くらい後かな…いや1週間もたってない』と答えました。
正直、訳もわからない私と中田さん。
私はだいたい薄々危険だなってぐらいしか、わからなかったんですが、中田さんは霊感等全く無い人なので、尚更意味不明だったと思います。
私は、とりあえず現状を把握しようと佐藤さんに訪ねました。
『いったい何なんですか?』と。
すると佐藤さんは一言。
『襖を少し開けて、気付かれない様に玄関を覗いて見な』
ただそれだけしか言わず、詳しく聞こうとしても、『いいから、早く』と。
私はゆっくり立ち上がりました、冬なのに変な冷や汗と、無駄に高鳴る心臓の音が身体中をキツく縛り付ける中、本当にギリギリ玄関が覗けるくらいに襖を開けました。
その時は今でも忘れません…自然とサーッと鳥肌が立ち、震えよりも身体中から血の気が引き、まるで監視されているかの様な恐怖が私を包み込み、そして縛り上げるました。
私が見たのは、玄関ドアに取り付けられている新聞等を入れるポストの口を青白い細い手で開け、真っ赤なコートを着た女性が部屋を覗いていたんです。しかもジーッと部屋を覗いているだけで他は何もしない…その姿がやけに怖くて仕方がなかったのは確かに覚えています。
するとスッと佐藤さん本当に僅かに開いた襖を閉めました。
私は覗いたままの姿勢で暫く硬直していました。
『……わかったろ?』
そう佐藤さんが言うと、ハッと我に返り、
『な、何なんですか、あの人は…』
と訪ねました。
しかし今考えれば佐藤さんが覗き窓を見ている時に既に彼女が玄関のポストから覗いていたとしたら…
女性は佐藤さんの足元と我々をしっかり見ているんです。
佐藤さんは訪ねました。
『引越した後に近くで事故とかなかった?』
正直まさか、って思いました。
ありきたり過ぎますし…しかし、そのまさかが恐怖の幕開けでもあるんですよ。
『ち、近くで通り魔があってさ…ここの部屋、その犯人が使ってた部屋らしいんだよね』
これで総ての辻褄が合いました。
『って事は…彼女は犯人に会いに…おいおい!!ヤバいぞ!!とりあえず今すぐベランダの鍵閉めてカーテン閉めろ!』
慌てた佐藤さんは次々と指示を出し、中田さんがカーテンを閉たと同時に電気が消え部屋に暗闇が広がりました。
薄暗くベランダから月明かりが差し込む部屋の中央に4人が固まり息を潜めていると…
ピンポーン…ピンポーン…
また呼び鈴が鳴り始めたんです、しかも今度はしきりなし何度も何度も何度も…
ピンポーン…ピンポーン…
ピンポーン…ピンポーン…
さすがに佐藤さんも、かなり危険と思ったのか、耳を塞ぎお経を唱え始めました。
暫くすると呼び鈴が鳴り止み、シーンとした空間で聞こえるのは我々の荒々しい息と佐藤さんのお経だけです。
すると次にはドアを開けようと無理矢理ドアノブをガチャガチャ音を立てながら暴れ始めたあげくドアを叩く音が部屋中を駆け回りました。
ガチャガチャガチャガチャ…!
ドンドンドンドン…!
ガチャガチャガチャガチャ…!
ドンドンドンドン…!
何度目かで音も無くなり、恐怖を確かめていると、佐藤さんは小声でお経を唱えながら、襖をスッと、本当に少し見えるくらい開けて玄関を除きました。
『う、動いたぞ…』
台所前にある、小窓に彼女の影が見えたらしいんです。
『どっか行ったのか?』
と眞鍋さんは訪ねます。
『どうかなぁ…わかんない』
と佐藤さんは答えました、私も玄関の方が気になって佐藤さんの様子を伺ってた時です
隣にいた中田さんが私の服の袖を引っ張り、ベランダを物凄い眼差しで指差しながら、震えていました。
『………え?』
三人がベランダの方に視線を移した時、身体中が凍りついたのは間違いありません。
カーテンを閉めて電気が消え月明かりだけが頼りの中で…先ほどの女性がベランダに居たんです。
真っ赤なコートが薄いのかカーテン越しと影に若干赤色が混じっていましてた。
我々はさすがに逃げる事も声を上げる事も何も出来ずに、腰を抜かし、ただ目の前に広がる光景を瞬きすらせずに見つめてま。
すると今度は窓を叩くと同時に唸り声をあげ始め、もしかしたら割れるんじゃ無いかと思われる程、強く窓を叩き、それと同時に低い声が部屋に響き渡ります。
ドンドンドンドン…!
すると次に窓を無理やり開けようと再びガチャガチャと音が部屋に広がります。
『ちゃ、ちゃんと閉めたよな…』と眞鍋さんは中田さんに確認すると
『は、はい』
とお互い声にならない声で話しています。
『勘弁してくれよ…』と中田さんはうつ向き耳を塞ぎながら呟きます。
すると…カチャ…
きっと反動で鍵が徐々に緩み開いてしまったんだと思います
冷たい空気が部屋の中に流れ込み、カーテンが風に揺れる中で静かにベランダの窓はカラカラと音を立て開き始めました。
すると女性の影は忽然と居なくなり薄暗い窓から風が流れ込むだけでした。
我々は安堵の表情を浮かべました。
『き、消えた』
中田さんが言うと我々は肩の力を抜き、ふうっとため息をつきました。
暫く動けず時計の針が進む音だけが部屋を包み込みます。
『本当に消えたんですかね?』
私は佐藤さんに訪ねました。
『さぁな…』
佐藤さんもまだ疑いながら部屋中を見渡していると。
『な、なんか喉渇いたな』と中田さんが言いました。
『ちょっとは空気読めよ』と佐藤さんが怒鳴ると、
『まぁまぁ…とりあえず終わったんだしさ…んじゃ、ちょっと飲み物取ってくるわ』
と眞鍋さんが立ち上がり、襖を開けた瞬間。
彼女はそこに居ました。
襖の向こうで、待っていたんです。
長い髪を滴らせ、不気味に矯正の器具を付けた歯で笑らいながら眞鍋さんの前に佇んでいました。
我々に再び恐怖が込み上げ、体は言う事を聞かず、硬直したままでした。
すると急に彼女は眞鍋さんの髪をグッと力いっぱい掴みま玄関へ引き摺り去ると同時にバタンッ!と音を立て襖が閉まりました…
『眞鍋さん!!』我々は溶けた氷の様に体が楽になり襖に近づき開けようとしますが、強い力で開ける事も出来ません、すると
『うわあああああ…!』
と眞鍋さんの悲鳴が襖の向こう側から部屋中に響き渡ると同時に女性の唸り声が響き渡ります。
体中に電気がビリビリっと走る様な痛みと恐怖が襖の奥から伝わってきます。
私達は必死に襖を開け様と試みますがビクともせず、叩いたり蹴り破ろうとしても開ける事が出来ず、ただ『眞鍋さん!!』『眞鍋!!』と名前を叫ぶ以外に何も出来ませんでした。
すると襖から風が通り抜ける様な感覚と同時に、急にベランダの窓がバタン!と閉まり、鍵が閉まる音がすると襖が開けられる様になりました。
玄関前で気を失っている眞鍋さんを見つけ駆け寄ると、首に青い痣が見えます。
『おい…ヤバくないか…』
と中田さんが言うと
『そうですね…とりあえず部屋に運びましょう』
と私が言い、中田さんと私で眞鍋さんを抱え上げ部屋に連れて行く時、佐藤さんは玄関前で凍りついていました。
『さ、佐藤さん?』
私は気になり近づくと、彼女は再び玄関に取り付けられているポストから私達を見つめていました、しかし今度は先程とは現状が違います。彼女と同じ目線に居る佐藤さんの首をポストから手を伸ばし掴んでいたのです。
私は持っていた数珠を彼女の手に当てると、もの凄い早さで手を引きコツコツコツとヒールの様な足音をを立て、台所前の小さな小窓に影を映し何処かへ消えて行きました。
後日、私と中田さんは近くの図書館へ向かい通り魔事件について調べました…しかし古い記事なのか我々では見つける事ができませんでした。
佐藤さんと眞鍋さんは、東京某所にあるお寺へ向かい、佐藤さんの知り合い"陰陽師"の方にお祓いをしてもらったそうです。
お祓い時間は2時間弱、特に眞鍋さんの方が状況が酷くお祓い後は疲れ果てていたそうです。
お祓いの時も、二人の首には青い手形がくっきり残っており、みる度に恐怖が込み上げてきます。
お祓いを終え、暫く安静にしている時に佐藤さんは陰陽師の方に呼び出され、こう言われたそうなんです。
陰陽師の方の言葉によると
『彼女は無理矢理性行為をされた後に、もの凄い力で首を絞められ亡くなられました。
その仕返し同様に彼女は首を狙ったんでしょう…暫くその痣は消えませんよ、それに、もう一人の彼は酷いですね…性行為を除き、殺害の再現をされています、死ななかったのは奇跡に近いですね、これは……しかし一番の原因は彼の部屋です、彼の部屋自体が何らかの歪みを生み出していると思われます…もし今まで通り住み続けるので有れば、毎日空気の入れ替えをし、玄関やベランダ、窓に盛り塩をしなさい、きっとすぐに腐るのが目にみえてますが…できれば早急に引越しをオススメします…何故なら殺されたのは彼女だけでは無く他にも居るから…危険と感じた時は遅いと思って下さい。』
そう佐藤さんに告げたそうです。
後日、お祓いを終えた佐藤さんに会う事が出来ました。
首には包帯を巻いて、まだ少し痛々しい雰囲気を漂わせながら、地元の公園のベンチであの日の事を話しました。
『首…まだ痣が取れないんですか?』
私にとっての不安要素を率直に聞くと。
『まだね…眞鍋のヤツも酷いらしいし…』
やっぱりまだ恐怖は拭えず、あの日を振り返る事すらも恐ろしいと感じます。
『あの日さ…』
暫く沈黙が続いた後に佐藤さんは話し始めました。
『眞鍋の家に向かう時に、電柱の後ろに、あの女の人が居てさ、周りも気付いてないし、最初は別に気にしなくて…電柱通り過ぎてもう一回確認したら居なくてさ、何か可笑しいなって思ったんだよ…それで眞鍋ん家に入って襖が見えてさ、その襖が少し開いてて誰か見てんだよ…俺等の事…でも電柱裏に隠れてた女の人じゃなくて…でも眞鍋は普通に開けたから、"まぁいいか"って思ったんだけど、部屋に入ってから座ったじゃん…眞鍋の後ろにずっと立っててさ…何か意味わかんなくなって』
そう話しながらガタガタと震えだした佐藤さんを、慰める言葉も無く、ただじっと話を聞いてる事しか出来ませんでした。
話をまとめると、当日、幽霊と呼ばれる存在は二人居ました。
我々を襲った女性と、眞鍋さんにくっついていた女性。
きっと二人とも通り魔の被害者だろうと予想できます。
しかしもし、我々を襲った彼女が現れず、眞鍋さんにくっついている女性が我々を襲ってきていたら…と考えると、何が起こっていたのかなんて予想も出来ません。
ただ一つ言えるのは、無事に生きていられて良かったと…改めて思えた事。
人の怨みの念は、我々生きている者からすれば予想も出来ない未知の感情です。
それを肌で感じ、目で見た事は、紛れもない事実であり、受け入れなければならない真実でもあると思いました。
だから決して、命を粗末に扱う事は止めようと、命を粗末に扱う行為を許すまいと今でも思います。