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山の島の魔工士  作者: 白菜
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1-2

 見かけるのは二種族。

一方は、耳の長い均整の取れた顔の種族――エルフ。

もう一方は、獣の姿になり怪力を持つ種族――獣人。

 ふと待合ロビーに置かれたパンフレットを取る。そこには、日本唯一の亜人共存地(コミュニティ)と記されている。

「なるほど異人共存地か。まさか親父の故郷がそうだったのか」

 

  ◇ ◇ ◇


亜人種が現れて以来、世界中で共存のための教育が始まった。人類と亜人種との相互理解のため積極的な交流が行われてきた。

そのなかでネックだったのは人類と亜人種の文化と言語の違いだった。言語についてはエルフの技術――精霊による同時翻訳のおかげで簡単に解決したが、文化については相当な時間を要した。

 亜人種は人類の文明に疎く、それは人類も同じであった。その解決のため、戸籍などを作り、共存の足がかりとなる環境を作ることで壁をなくそうとした。

 亜人種たちが仮に住まう土地として選んだ場所は世界に数百箇所。中でも亜人種の人口が多い二十五の地域は亜人共存地として保護されるようになった。

そして彼らは、人類の文化や規範を知り、徐々に人間社会に適応して行った。


 ◇ ◇ ◇


「アラタさーん!」

 ロビーを抜けると、甲高い声が響く。

声の方に視線を向けると、新多に向かって手を振る女性が一人。

よく見れば、その耳は長く、その身に纏う雰囲気は内面の美しさを表している。

新多が近づくと、彼女は一礼して告げる。

「はじめましてアラタさん、(わくたし)、エルフのクリア・ウォーカーです。気軽にクリアと呼んでください。シンジさんから話は聞いてます。案内しますのでこちらへ」

「シンジ……って、親父(シンジ)ィ!? 親父を知ってるんですか!?」

「あら? 聞いてませんか? シンジさん――あなたのお父様とは幼馴染なんですよ」

「聞いてないし、幼馴染ってことは――」

 新多はそこで止める。

 鋭い視線が新多に刺さる。彼を見るクリアの眉間に皺が寄っていた。

 エルフの見た目は老けづらい、というより十代後半の姿からあまり変わらない。それはもちろんクリアも同じで、新多の(シンジさん)と同年代には到底見えなかった。

 女性の年齢に触れるのは種族問わずタブーのようだ。

「それで、シンジさんに息子がそっちへ行くから案内してくれと頼まれていたんです」

「そうだったんですか、親父何も言ってくれてないから」

 クリアはやっぱりそうかといった表情で苦笑する。新多の父と幼馴染というだけあって、何か思うところがあったのだろう。

 クリアが歩き出し、それに新多も続いた。

「あと、今私は東條のおばあちゃんのとこでお手伝いをしてるんですよ」

「へえ、ばあちゃんって何やってるんですか?」

「雑貨屋さんです。私が生まれる前から、代々の家業なんですって」

「聞いたことなかった、親父はばあちゃんのことあんまり話してくれなかったし」

「そうですか……」

 申し訳なさそうな顔で目をそらすクリア。新多はでも、と付け足す。

「親父は商社勤めだし、一応は家業を今の、現代の形で引き継いだっても言えるのかもしれませんね」

「……そう、ですね。シンジさんが話さなかったのも何かわけあっての事かもしれませんしね」

 頷く新多。クリアの表情は彼の思ったよりも明るかった。


しばらく歩くと、商店街に出た。

街中には人も亜人もまばらに見える。

「クリアさん、この島にはどの種の亜人がいるんですか? クリアさん含めても、エルフとワービーストは見かけましたけど」

「そうですね、アラタさんの言ったエルフとワービースト、他にはマーフォークが多いですね」

「マーフォーク……人魚?」

「そうです、生憎ここは離島ですので。人魚(マーフォーク)は海を知り尽くしていますから。他にも何種族か居ますけど少数ですね」

 新多には新鮮な気持ちだった。

今まで過ごした場所では亜人を見ることがあまりなかったからだ。

 近年では亜人との交流の機会など、数えるほどに減っていた。それほどまでに周知の事実、常識となっていたのだ。

亜人種の全人口はおおよそ五百万、その九割以上が亜人共存地に住まうという中、亜人共存地を離れれば、そこに住む亜人など両手で足りるほどになってしまう。

だからこそ、新多たちの世代以降では亜人種というものに対するリアリティは薄れてしまっていた。

「港から意外と遠いんですね」

 港からここまではおおよそ二キロほど。確かに徒歩では近いとはいえない距離だ。

「普段なら車使うんですけど、この前修理に出しちゃいまして。あ、ここを抜けたら、おばあちゃんのお店まですぐですよ」

 商店街を抜け、大通りに出る。そこから一つ路地を入ったところにそれはある。

 古いがしっかりと手入れされた和洋折衷の一軒家。

東條雑貨店と書かれた看板が特徴的なそこは、新多が聞いていた祖母の家に違いなかった。

「ようこそ、東條雑貨店へ♪ さ、おばあちゃんが待ってますよ」

 扉が開かれ、楽しそうなクリアに続いて新多も扉をくぐった。


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