プロローグ
七月も終わりが近づき、扇風機だけでは耐えられない暑さがやってきた。この古く、エアコンなど設置されていない雑貨店は過ごし辛い。
連日の訓練とこの暑さで寝不足気味の目をこすりながら彼、東條新多は店の開店準備をする。店主である彼の祖母は早々に店の工房に入っている。師匠として彼の訓練を毎晩監督している彼女がてきぱきと動いているところを見ると、鍛え方の違い、年季の違いを感じる。
まぶしく輝く朝日を浴びながら深呼吸する。
新多の、魔法使いの一日が始まる。
◇ ◇ ◇
三月半ば。新多の通う大学の二年次の成績が確定した。十分とはいえないが幾らか余裕を持って三年への進級が確定して一安心といったところだ。
確認し終えてすかさず携帯を取り、電話帳をスクロールする。成績は新の実家に送られるが、早くても四月手前になる。だが出来るだけ早く伝えてくれと再三言われ続けていたから、両親にするか迷ったが、今の時間暇であろう姉の番号を選ぶ。
数回の呼び出しの後、
『お掛けになった電話は現在電源が入っていないか……』
と流れた。
(やっぱりな)
新多はそのまま実家に掛けなおす。こちらもやはり誰も出ないので留守電にメッセージを残し、携帯をほおり投げた。
直後、鳴り響く着信音。画面には彼の父の名。
彼は電話を取る。
「もしもし、何かあった?」