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占札師の屍体を埋葬した一行は、駱駝達が回復するのを待つため2日の間オアシスに留まった。が、芳しくはなく、仕方なしにポーションを使った。
潤沢な資金がなければこんな無駄使いなど出来ない。又、行動するのは朝と夕の2回にしたのは、万全に近い状態で到着するためで……彼等が考え得る最善の選択肢だった。
青王都ディアルトを出発して10日--目的地は近くならない。幾つも点在する小さなオアシスを活用して、迂回に次ぐ迂回とはいえ……そのオアシスが見えたとき、リードは違和感を覚えた。
風が全くなく変化がない砂漠の景色に、明確な影を落とすフスーフィリ・カルクルを抱く廃墟群。近付いているはずなのに、遠ざかっているような気さえするのは--気のせいでも錯覚でもなかった。
常緑の広葉樹を守るように、突き出た3本の椰子が特徴の中規模のオアシスは--。
「--戻ってる!最初のオアシスだよ!!」
間違いなく青王都ディアルトを出発し、占札師の命を奪った場所だった。
焚き火の痕と染み込むことなく黒く固まった血の跡に愕然とする。ガドル・パーディアは、明確に彼等を拒絶していた。
だからといって引き下がるのは、冒険者である資格はない……脳裏に嘲笑を隠さない族王ロデ・ケイサルの傲慢不遜な顔が過ぎった。
「何としても辿り着くぞ!“豪腕の獅子王”を侮どるな--」
ここから引き返し再挑戦のために準備をするのは、愚行でしかなかった。
攻略に赴く冒険者達の一挙手一投足は、砂漠にいるからこそ干渉されず自由なのであって、一端戻ればコロッセオ行きとなり、奴隷のような扱いが待っている。観客を喜ばせるためだけに、戦って命を奪う日々……彼--カターク・ティスが冒険者になったのは、そこから抜け出すためであり、彼の王様に一矢報いるため。
怒りに震えるカタークに釣られるように、一行は昼夜問わず強行軍で目的地を目指し……呆気ないというのか、何の妨害も障害もなく4日目早朝に到着した。しかし、駱駝は完全に潰れてしまい帰りの足がなくなった。
手持ちの荷物が殆ど減らなかったのは僥倖以外のなにものでもなく……一端、休息を取ることにした一行だった。
「肌寒い……」
「陽が昇るまでの辛抱だ」
凍てついた夜気が勢いを失い、濃紺の空が白み始める。波打ったまま動かぬ地平を橙黄の光が走り、濃い赤みを帯びた太陽がゆっくりと昇り--一行は、血に塗れたように染め上げていく。その先を暗示するかのように・・・。
†††††
「……やっと、来てくれた」
誰ともなく呟き、暗く病んだ笑みを浮かべる。右手をゆるゆると上げ指を鳴らすと、闇の中に白い人影が幾つも浮かび上がった。
どれも同じ顔、同じ身体、同じ髪、同じ衣装を纏った愛くるしい美少女--魔王ファウダ・ウルティオが丹精込めて作り上げた人形達だ。
「さぁ、出迎えようか?可愛い可愛い娘達よ--」




