表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
新章
96/141

(ジオラマか……?)そんな呟きが漏れる。目の前に広がる光景は、規模の違いはあれジオラマにしか見えなかった。

 砂に半ば埋もれるように連なる高層ビル群を、抱き込むように大人の腕ほどの蔦がびっしりと這っている。そこかしこには、原色に毒々しい色彩が混じる巨花が幾つも咲き誇っていた。

 一昔前の特撮作品を彷彿とさせ、どこからか出てきても可笑しくはない雰囲気がある。が、これは作り物ではなく現実で……。

 辺り一面に転がるのは、琥珀のような樹脂に摂り込まれた人ほどの大きさがある昆虫……それらの中から見つけた代物に、砂漠の民を束ねる族王アファ・サムは思わず呻いた。

 陶酔したような表情で閉じこめられているのは、行方知らずになった砂漠の民達だった。

 可能性であって欲しいと考えていたことが、現実となったのに戸惑いと怒りを覚える……。

「--行かれますか?」

 司祭長アルフの問い掛け--すらりと引き抜かれた刀と呼ぶ片反剣が素養を帯び白光を纏った。

「無事を願う--」

 感情を押し殺した砂漠の民の声を背に勇者--篠頭勇司は、クルヴァーティオに突入した・・・。

†††††

 ピシッ!澄んだ甲高い音を立てて、建物ごと蔦が切断され……縦横無尽に閃光が走り行き過ぎた後には、崩れ落ちた瓦礫とカラカラに乾涸らびた蔦が、ゆっくりと砂に呑まれていく。物足りなさを覚えつつ刀を振るい続け--咄嗟の判断で右に躱し、左腕に装備した盾付きの籠手が受け止めたのは、人と変わらぬ巨躯をした蟷螂。取り囲むように近付くのは人と変わらぬ巨躯をした蟻だった。

「はあぁぁ--《波光球(イディア)》!!」

 ぞわりと怖気が走り、振り払うために気合いを入れ--全身が素養に包まれ、中心として光芒が膨れ上がった。

 四方に炸裂し光が終息すると高層ビルと蔦の半分近くが消失し勇司は大きく息を付く。勢いのまま行動し、素養を解放したせいか体力は限界に近かった。

 周囲に気配がないのを確認し休息するために、勇司は魔道具の結界を張った……。

                         ◆

 ザザァ……大気が揺れる度に幾つもの形を変え砂丘の波がうねる。地上から走る閃光はさながら、雷のように見えた。

 ヴァスリーサ・マクルの畔に陣取るのは砂漠の民と砂王都アディリザの騎士。安全圏とは言いがたいが、クルヴァーティオ浄化の経過を見守るために最良な場所は、ここしかなかった。

「頑張ってくれているようだ」

「無事に終わって欲しいですね……」

 近衛騎士エリシャ・ユートの呟きに司祭長アルフが答える。召喚から10日あまりでLv13まで上げた。

 何かしらの強い意志を持ち妥協を認めぬ様子は危惧と不安を抱かせるしかなかった。

 それゆえ、大っぴらではないものの、彼はエロエ・ハエレティ--“異端の勇者”と呼ばれている。しかし、クルヴァーティオ浄化は今のところ順調らしい……。

「待つしかないとは……歯がゆいな」

 族王アファは暗い眼差しで頬杖をつく。天幕の中には各部族の長が集まっており、クルヴァーティオ浄化が成功するのを待っているのだ。

 誰もが無言で重苦しい沈黙が満ちる。どれ位過ぎたのか突如、大気だけでなく天幕毎地面が揺れ--慌てて飛び出すと、砂丘は大きく崩れその先に林立する建造物とを繋ぐように左右に分かたれていた。

「一体……」

「恐らくは勇者でしょう……クルヴァーティオ浄化が成功しつつあるのだと、思います」

 司祭長アルフ・レドーの科白が現実であって欲しいと、その場にいる誰もが思っていた・・・。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ