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帝都フロリネフ以前のお話……
--世界暦2191年、夏季5月。
青王都ディアルトは、情報と物流が行き交い文化風習・人種・価値観などが種々雑多に混じり合う交易都市として名を馳せていた。
又、金さえあれば貴賤を問わず受け入れ、失えば砂漠の直中に放逐される退廃と享楽に満ちた不夜城都市でもあった。
統括するのは隊商氏族でありながら定住することを望み、砂漠の直中に城壁を築いた変わり種の男。数年足らずの間に、ガドル・パーディアの大半を支配下に置けたのはヴァスリーサ・マクル--“砂妃の泉”を手中にしているからだった。
「--条件は生還ではなく攻略、果たした暁には完全なる自由を与えようぞ」
青王都ディアルトの族王ロデ・ケイサルは嘲笑混じりに告げて、冒険者に支度金を渡した。
銀50(¥500000)もの大金を出したのは平穏な日常に飽きていたため。退屈凌ぎのネタとして、攻略どころか生還さえ難しい迷宮フスーフィリ・カルクル攻略を喧伝したのだった。
その結果、幾つもの冒険者一行が帰れぬ存在となり……族王ロデは“略奪王”の悪名で知られ、フスーフィリ・カルクル攻略に二の足を踏む冒険者は少なくなかった。
「--期待に添えるように努めましょう」
◆
“豪腕の獅子王”は、ガドル・パーディアに点在するオアシスの1つ--廃墟群に、最も近い場所で一夜を過ごしていた。
攻略の鍵はいかに余力を残すか……その一点に尽きる。潤沢な支度金が装備や道具類を、それぞれも現状で手に入る最良の武防具を揃えられた。
後は、彼等の強い意思と不屈の精神の維持……。
「夜明けには出発だ、できる限り休もう」
その科白にそれぞれが休息に入り、数分と立たぬうちに深い眠りに入る……。
--見つけた--。
“それ”はニィ……と笑った。
魔道具の結界に安心しきっているのか、彼等はピクリとも動かず眠りから目覚めない。覗き込む“それ”が愛おしげに屈み込み覆い被さると、溶けるように重なった--弾かれるように跳ね起きた彼は、周囲を見回し安堵した。
「眠れそうに……ないですね」
焚き火は僅かに赤みを帯び消えてはいない。少なくなった枯れ枝をくべるとボウと火が上がった。
夜明けまでは未だ時間があり、彼--占札師アヴ・グリスタは炎を見ながら現状に至る経緯を思い描いた・・・。




