豪腕の獅子王
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何処までも果てしなく広がる砂の大海に、大きく膨らんだ太陽が傾き地平の彼方に沈んでいく。静寂に満ちた大気さえも血塗られたように赤く染まり、砂塵を巻き上げ渡っていった。
永遠の連なりを思わせる砂丘の波。名残を惜しむかのように陽炎が最後の死者の夢のように踊り、その頂は不確かな存在とさえ思わせた……。
アルヴァロ・マーロに匹敵する規模のガドル・パーディア--“大沙砂漠”は、過酷な世界だった。
灼熱の昼と極寒の夜が繰り返され雨は極端に少ない。吹き抜ける風はカラカラに乾燥し、焼けた砂を孕んで呼吸さえ奪う。植物はオアシス周辺のみに繁茂し、環境に順応し乾きに強い動物だけが生息していた。
加えて魔獣や盗賊が傍若無人に振る舞っていたりもする、端から見れば過酷な世界でもある。特に夜の砂漠は顕著だった。
耳を澄ますとオアシスの外を砂が走っていく音がする。そこに混じる微かな軽い音は、砂漠の生き物の息使いに他ならず……夜の砂漠を行く者は死に行くのと同義だった。
◆
フスーフィリ・カルクル--“蝕虹の牢獄”が、攻略の難しさで指折りの迷宮と言われるのは、辿り着けずに砂の海に沈む冒険者が多いのが最大の理由だ。
ガドル・パーディアのほぼ中央に聳える廃墟群は件の迷宮を内包し、砂漠の何処でも目にすることが出来る。しかし、訪れるのは容易ではなかった。
陽炎と蜃気楼が距離や空間を歪める。焼砂を巻き上げ吹く熱風と容赦なく照りつける陽光は、体力を落とし体内の水を奪う。川の如く流れる砂手(流砂)に足を取られれば、砂漠の生物達の糧となるのは避けようがなく……辿り着く生存者は少なかった。
だから生半可な、上級以上の冒険者でなければ到達することが叶わないと言われており、攻略できれば名声と称号が手に入るのは確実だった。
カターク・ティス--魔拳闘士をリーダーとする“豪腕の獅子王”は、フラウ・ワルナ--赤魔技、トラウル・ニュート--剣闘士、リード・ヴィータ--白魔技、ヒア・コーエル--黒魔技の5人構成で、上級冒険者としてそれなりの知名度がある。しかし、メンバーの誰も称号持ちではなかった。
称号の有無は待遇と報酬に直結し、実力通りの評価を得られない状況を変えるにはどうしても称号が必要となった。
そして、称号を得る最短の手段は誰の目にもはっきりと分かる功績を残すこと。そのために選択したのが、フスーフィリ・カルクルの攻略--彼等は、未来を賭けたのだった・・・。
舞台は砂漠です




