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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第一章
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名無しの冒険者

やっぱり、設定集必要かも……投稿しました

「……大丈夫か」

「怪我は治した……体力の回復を待つしかない。」

 その言葉にヴィクトールは顔を歪める。障害物がないため隠れる場所はないが、怪物は彼等を見失ったのか去って行った。

 1回発動すれば半永久的な魔道具を使った結界により、一応の安全は確保した。 が、いつまでもこうしているわけにはいかない。しかし、脱出する方法が見つからなかった。

「この場所は閉ざされている、《音霊(ムシィカ)》が反響するのみだ。唯一の方法は……」

 ティネの言葉に覚悟はしていたが、現状で戦いを挑むわけにはいかない。

「どれ位掛かる?」

「《回復(クラル)》の効果がやっと……」

「だ…いじょうぶだ――」

 小さな呟きと共に支えられ体を起こしたヴァルクは、頭を軽く振って気怠さを追い払った。

「無理はするな」

「そうもいかねぇ……ぐずぐずしてる暇はないんだぜ?」

 その言葉に顔を曇らせるヴィクトール。

 怪物自体はCランク、高く見積もってもBランクの下位と見たが、厄介なのは凄まじい回復力と頑丈さ。それされなければ、彼等の敵ではないはずなのだ。

「あいつを倒せばどうにかなる……魔王次第だが」

 その言葉に、ヴィクトールはこれまでのことを考えざる得なかった・・・。

†††††

「本当に嬉しいよ、来てくれてありがとう? あ、そうだ……来るなら夜がいい。直々におもてなしをするから、ね」

 村でラヴァン・ソルティス――魔王直々の招待を受けた彼等は、望むとおり真夜中にスェターナ・サートを訪れた。

 開かれた樹海の道を進むのは彼等一行のみ。生き物の気配もなく無音……重苦しい沈黙は、闇よりも暗い影の林立を目にしたことで途絶えた。

 昼間の明るさと賑やかさは幻想でもあったかのように、濃い死の影を纏う打ち棄てられた廃墟がそこに在った。

 入口を探すために近付くと正面ゲートの入口が開いていた。

「本当に招待してくれたんだ」

「行くか?」

「行かざる得ないね、第一失礼だよ」

 お互いの意思を確認してゲートを潜り……行き着いたのが、迷宮の一部らしいこの場所だった。


『――彼等はどこにいるのですか?』

「ペナルティーで転生した僕の使い魔……餓えきった蛞蝓男。エロエ・ルマーカ――“勇者”の生息地だよ?」

 “声”ではない問い掛けにラヴァン・ソルティスは答える。その顔はスクリーンに向けられていた。

 音響効果を高めるために天井を高くし、6機のスピーカーが埋め込まれたその空間には、深紅の高級ベルベットを用いた肘掛け椅子が7脚単位で、5列配置されている。この世界には存在しない筈のミニシアター。そのほぼ中央の席に、白い人影がゆったりと腰を下ろしていた。

 映し出されているのは、迷宮攻略中の冒険者一行。仮想ではなく、現実の光景だった。

「贅沢な気分になるね?まさか、この世界でこういう風に見られるとは思わなかったよ」

 アト・クローウン――“地獄の道化師”の名を与えられ、器を得た迷宮の“意思”は、苦闘する冒険者をスクリーン越しに、ラフマ・キナウ――“慈悲の仮面”の呼称を持つ魔王と共に眺めた。

†††††

 生臭く湿った空気に満たされた暗闇。ジンシィが指を鳴らすと杖の先に小さく揺らぐ《炎小精(フルミュラ)》が点った。

 壁と言わず床と言わず縦横無尽に交差し、杖の先の灯に反射し煌めくのは、幾筋もの線……何かが這ったような痕に見えた。

「なんて言うか……蝸牛か何かの痕っぽい」

「……魔法は使える。いずれにしろ、何かがここにいる」

 先頭をヴィクトール、殿をジンシィが務める一行は、比較的新しい粘液のような痕を辿っていく。生臭い空気に素養は感じられないが、ゆっくりと警戒しつつ進んでいき……。

「――――!!」

 振り向きざまに放ったジンシィの《火球(アタール)》に阻まれ藻掻くそれは、忌避すべき何かだった。

 杖を一振りすると《炎小精》は燃える何かに触れ、爆発に近い熱量を叩き付ける。その隙を突いてヴィクトールの《聖槍》とマヴェールの《双刃》が切り刻んだ。

 魔法と連撃のコンビネーションに、体液と肉片を撒き散らしその何かは崩れ落ちた。

 人型に近いそれは全身を焼かれビクビクと痙攣している。期待外れの呆気なさに落胆しつつ、ヴィクトールは止めの一撃を振るった。が……瞬速の攻撃に阻まれた。

 紙一重で躱し距離を取ると、切り刻まれ焼かれたはずの何かが起き上がる。凄まじいスピードで再生した何か――それは、生理的におぞましい怪物だった。

 人型には違いないが、うねうねと動く2本の触覚と磯巾着のような口を持ち、粘液を垂らす触手が腕の部分にあるにも関わらず、下肢は明らかな人間の物――そこにいたのは、蛞蝓と人間が融合した怪物だった。

「っ……!」

 怪物の動きはヴィクトール達からすれば普通の人間と大差は無い。しかし、尋常ではない再生能力と鞭のように振るわれる触腕、更に撒き散らされる粘液が厄介極まりなかった。

 それでも逃げるわけにはいかない、攻略に成功すれば、彼等一行は名を取り戻すことが出来るのだから・・・。


 




 

納得いかなかった部分を訂正。

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