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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第七章
87/141

無貌(カオナシ)の夢魔

鬱屈しすぎると悪夢が来ます……

「貴様は…っ!」

 ズザァッ!甲冑ごと、胸板を貫かれ門番の衛士は崩れ落ちる。返り血を拭いもせず進む侵入者に、異変に気付いた衛士達は次々と突き倒された。

 腕に自信のある特権階級や配下の武人、警護兵士や近衛兵も立ち向かうが……怪物染みた膂力と槍術に、屠られるように倒され至るところが鮮血の海となった。

 爆音と共に業火が襲い風刃が空気を切り裂き、炎を凍らせる氷塵が吹きすさび光の矢が降り注ぐ。が……歩みは止まらなかった。

 迷いも何もなく確固たる歩みに躊躇はない。繰りだされる魔法攻撃は虐殺者を、辛うじて人の形を留める肉塊にし--おぞましさと恐怖に、ある者は立ち竦みある者は躊躇して、槍の餌食となった・・・。

                             ◆

「下郎がぁ!」

 公国王ティプシー・アイファは激昂し、護身用のサバイバルナイフ--アーティファクトで娼婦に扮した暗殺者を切り裂く。腹部から大量の血と腸を覗かせて、豊満な肢体は床に倒れた。

 悲鳴を上げて怯え震える娼婦達を睥睨し、炎揺らめく燭台を彼女達に投げつける。阿鼻叫喚の悲鳴と肉が焦げる臭いに、哄笑する若き王だったが……。

『……憎らしや。恨めしい--』

『我等が何をした……忌ね!』

『--呪ってやる。永劫に……呪いを!』

 音なき“声”が周囲を巡り、口々に責め立てる。ナイフを振り回しても空を切るばかり……そうする内に、四肢が動かなくなった。

 声も出せず藻掻くティプシーに、ゆらりと影が落ちる。暗殺に失敗し彼の手で命を絶たれた娼婦の、土気色の唇が三日月に大きく開いた。

 ずるり。うねうねと蛇が這い上るように髪の毛が首に巻きつくと、糸が切れたように崩れ落ち……身動きを封じられたティプシーは首を絞められる格好になった。

 藻掻くほどに髪はギリギリと絞まりチカチカと光が脳裏で明滅。呼吸は出来ず切迫する、心臓の鼓動は今にも破裂せんばかりで--。

                            ◆

「わぁっ!?」

 大きな悲鳴を上げて跳ね起き首に手を這わす。きょろきょろと周囲を見回し安堵の息を吐くと、玉座に背を預けた。

 王の間は、彼が即位してから私室と化して享楽の場となった。

 複数の娼婦と戯れ溺れるのが日常。白粉と酒精の匂いが立ちこめ、彼女らは王の歓心を引こうと競い合う……が、疲れたのか誰もが眠りの淵にあった。

(夢か……)ろくでもない夢だと毒づき、空気を入れ換えようと玉座から立ち上がったところで、急を知らせる側近の怒号や近習の歎願、扉を激しく叩く音--が、彼を不快にさせた。

 無視を続けていると、唐突に扉を叩く音と喧噪が途切れ諦めたのかとホッとするティプシー。ピシャリ……その水音が耳に付き、目線を下げると床は血の海。鼻孔を擽る臭いが微睡む娼婦達を一気に覚醒させ、絶叫が王の間に響き渡った。

 呼応するように扉が外側から何度も殴打される。鈍く重いそれは、巨大な鎚か何かで打ち破るかのように扉を振るわせ、扉の下からは黒ずんだ血がごぽごぽと沸いてきていた・・・。

†††††

 ドサッ!玉座からずり落ち床に倒れた王に、形骸化したとは言え王の間で開かれた会議の参加者達--執政官と貴族、聖職者はそれまでの言動を止めた。

「--王様?」

 糸の切れた人形のように、ぴくりとも動かない様にどこか不吉なものを感じる。不摂生が祟った可能性はあるが、このままではいけない--側近の貴族が起こそうと近付き王の顔を覗きこむ……。

「ひぃっ!」

「どうし……っ!」

 青冷め腰を抜かす貴族を怪訝に思いつつ、執政官は倒れている王に近付き息を飲んだ。

「い、医師を--扉を閉めよ!何人も出てはならん!!」

 王宮付きの医師--聖職者が呼ばれ、王の間は閉ざされる。そして、何人(ナンビト)もの出入りが禁じられ、厳戒令が王宮に布かれたのだ・・・。

   






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