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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第七章
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「……起きてください」

 肩を叩かれ目を覚ますと周囲は暗い。カンテラが照らす地面は疎らな雑草の地面、木々が生い茂る林の中に、馬車はあった。

「これは……ッ!」

 夜の闇に彼と護衛騎士の2人が馬車と共に残され、付き従った下級聖職者と御者の姿がなく……鈍い衝撃と熱を伴った痛みが老いた聖職者を襲う。ぐらりと傾いで倒れた身体は藻掻きもせずぴくりとも動かなくなった--。

「お…許しくださいっ!ど、どうしても…どうし、ても--」

 護衛騎士は槍を手放し顔を覆う。彼の家族は濡れ衣を着せられ処刑を待つばかり……前王を殺しその首を持ち帰らなければ、惨殺されるのだ。

「首尾は上々だな?早く首を斬れ!」

 世話役として付き従ったはずの下級聖職者は、あろう事か屍体を足蹴にし、騎士の喉元にはもう1人の聖職者がダガーを這わせていた。

「何を……!」

「用済みだよ?とうに処刑されてるし--直ぐに会わせてやろう」

「醜いなぁ……全く」

 呆れるような声に誰もが硬直した。

「1、2、3…隠れてるの入れて7人かぁ』

『3人よ。隠れてるのは、玩具だもの?』

 緊迫感のない男と少女の声は嘲笑を含んでおり、聖職者の屍体が立ち上がった。

「っ……!」

『質が落ちたのかな……簡単に引っかかるんだからねぇ』

 温厚柔和な老聖職者--前王スリーエーの顔は悪意に満ちた笑みに彩られ、人の物ではない“声”には揶揄する響きがある。想定外の展開に騎士と聖職者2人は、呆然と屍体になったはずの老聖職者を見つめた……。

                         ◆

「--お疲れでしょう?良くおいでくださいました、公国の使者殿」

 城砦から街道を進むこと2日。馬車は中継地で一泊した。

 早々に宿泊所で休息するスリーエーの元に、アトルバスタからの使者が来たのは夜更けだった。

 夜盗の存在が確認され、使者の安全を図るために護衛を派遣したらしい。戸惑いつつも馬車に乗り込みアトルバスタへ向かった。

 夜通し馬車は走り到着したのは夜明け間近……出迎えたのは、アトルバスタ宰相ミカルディス。直々の出迎えに恐縮する彼は、本当の理由を告げられた。

 彼を亡き者にしようとする暗殺計画を阻止するために、護衛と馬車を派遣したのだと・・・。

†††††

「役立たずめ!」

 ゴブレットを投げ捨てる若者--公国スリーエーの新王ティプシー・アイファ。使者の一行に紛れ込ませた暗殺者からの、連絡がないのに苛立っていた。

 新王戴冠まで日はない。城砦に馬車を用意したのは、スリーエーの外で暗殺するため。盗賊に見せかければ、失敗しても言い逃れは出来る……連絡手段は幾らでもあるし、成否だけでも報告できるはずなのだ。しかし、連絡はない--。

「やはり、魔王の仕業にすべきだったか--」

 誰もいない王の間で1人呟く彼。ぞくりと背筋が寒くなり、首筋の毛が逆立った。

『--不敬にも程があるのぅ。王の何たるかも知らぬ癖に、大層な口をきく』

 咄嗟に帯剣を抜き足下の影に突き立てる。甲高い金属音を上げて、レイピアはその半ばから折れた。

『殺しはせぬよ、殺したいところじゃが--国の趨勢は人の領分じゃからのう。今は亡き彼のお方と我が主人(アルジ)たる魔王様の承認がある故、国と呼ばれておる。それだけじゃ……努々忘れるでないぞ?』

 不自然に伸び上がる影は人の物ではない“声”でティプシーを諭すように叱り、言い終えると元の影に戻る。

夢でない証は半ばから折れたレイピアと大理石の表面に穿たれた痕……唇を噛み屈辱に震えるしかない公国スリーエーの若き王だった。

 

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