2
その国は、街単位ほどの規模しかない小さな国だった。
滅亡したのは約20年前。にも関わらず名はなく、存在したことさえ忘れ去られた。
確かなのは、君主も民も悉く死使の手に掛かったこと。帝都フロリネフによる一方的な蹂躙によって完膚なきまでに滅ぼされ、領土は焼かれた上に塩を撒かれたことであり、名を口にすることを禁じられたという事実のみだった。
◆
(……助けてくれたもの)愛おしげに自らの腹部を撫でる。彼女は、恩人を助けるための手段として、産み直すことを選択した。
夢の中で非業の死を遂げ、どうやっても助けることが出来ない存在。助けたいと願い続けたせいか、夢は少しずつ変容し死を免れた。
しかし、追っ手が現れて捕まえようとする。だから、自らに摂り込み匿う……孵化させることにした。
それが恩人が望むことであり、彼女の幸福だったのだ。
†††††
「とうに存在しないよ?忠誠と献身が君自身を惑わせていた。堕ちてもいいと望むほどに--」
セラスはラヴァン・ソルティスの科白に打ちのめされ、混乱の度を増す。パーティーのリーダーであり、主人であるゾフィー・アミラは、亡国の貴族令嬢だった。
天涯孤独となり冒険者の道を選択して、その素質を開花させる。無名ではあっても、その実力は折り紙付き……上級冒険者として認知されてきた。
又、パーティーのメンバーも並々ならぬ実力があり、その関係性は家族のようだった。
それが崩れたのはある依頼の結果……彼女は異性の少年となり、生命力を削られ衰弱していく。死使の足音は間近……それゆえ彼は持てる伝を使い、思いつくあらゆる方法で助かる道を探した。
そして、見つけたのは堕ちる--魔技の道を踏み外し禁忌を犯すことだった。
冒険者といえど子供に扱える武防具は限られている。そこで射手の腕を生かすため、小弓に軽量化を施し、防具に身体強化と体力付与を施した。
魔法の影響を抑えるためだと渡した象牙のブローチはアーティファクトで、身に付けている間の怪我や疲労は、セラスが肩代わりするように調整した。
更に、冒険中の致死率と生存率を上げるために、自らの生命力を分けるという危険性も犯した--その行為自体が、仕組まれていたなど信じたくはないし、信じられなかった。
しかし……彼の魔王は事実しか話さないことで知られている。言葉を飾ることもなく、事実のみを・・・。
「そ、んな……いつ、いなくなったと?見誤るはずがない!!」
「ククーロ・ストゥーレガ--“託卵の魔女”。あの姿は擬態が解けたんだよ?孵化が早過ぎるから、きみを摂り込もうとしたんだ」
呆然とするセラスに、アゴニはたまらず目を反らす。端から見てもその献身と忠誠ぶりは感嘆するしかなかったのだが……。
「し、失礼を承知で……ククーロ・ストゥーレガとは何なのですか?」
勇気をふるい、気持ちを落ち着かせるためにアゴニは、ラヴァン・ソルティスに疑問をぶつけた・・・。




