2
「これは……」
現役冒険者セフォンと共に、エンジール・ファソナの第四室まで赴いた一行は、見送られて転送陣で第五室に向かった。
しかし、転送された先に拡がるのは、ピカピカに磨き上げられた樹肌を持つ異質な巨木の森だった。
見上げても空は見えず光がないにも関わらず、森は明るく異様な巨木は影を色濃く落としている。洞窟であったり迷路であったり……と、壁と天井がある空間に形成されるから迷宮と呼ばれ、それはエンジール・ファソナも例外ではない。例え入る度に構造が変わってはいても、だ……。
「符に反応がない。何処かに飛ばされたようだぞ?」
グイオンの科白に愕然となった。
ギルドが配布する簡易転送符は、冒険者にとって最後の命綱。瀕死であろうと符を使えば迷宮から、瞬時に脱出できる。それが使えないという事実は、今いる場所がエンジール・ファソナ--迷宮ではないという可能性を高める代物だった。
戸惑いつつ巨木の間をを進む一行は、その異質さに絶句するしかなかった。
「……竜だ!どれもこれもそうだ!?」
「樹には違いない。が--」
軽く叩き触ってみても、その感触は木の質感しかない。が……。
逆さまにしたスプーンのような形をした小さな頭。なだらかな曲線を描く首と引けを取らない位に長い尾。とにかく巨大化したさせた樽のような身体に、大人3人が両手を広げてやっと届く丸太のような4本の足……森の大半を占めているのは、それらだった。
その間で、虎視眈々と狙うのは鋭歯が並んだ顎を持つ、体躯の4/1程の大きさの頭。太く短い首に貧弱とも言える前肢。強靱な筋肉の塊の鳥のような後脚とバランスを保つための太い尾--勇者達が“竜”と比較するために口にしていたという、説明のために残したとされる図録そのままの“恐竜”がそこにいた。
まるで獲物を探しているかのように、進む度にゆらゆらと揺れる濃い影……息と気配を極力殺し出口を探すハノ一行だった。
◆
「お友達--見いつけたっ!」
舌っ足らずな甲高い声が森を渡る。ぎくりと動きを止める彼等の周囲を、チカチカと光の粒子が舞った。
「ようこそ!ルシヌート・ヤール--“化木竜の森”へ!!」
パァッ!光の粒子が1カ所に集まり強く輝くと……白金髪に碧瞳を持つ、薄桃のワンピースを纏った美少女が、好奇心に満ちた表情で彼等の目の前に佇んでいた・・・。




