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エンジール・ファソナには3つの入口がある。その1つタハ・ディール--“警告の扉”は、初心者専用だと認識されていた。
ここを攻略もしくは踏破出来なければ冒険者には向かない。本人が望んでも、結果次第では冒険者の道を閉ざされる……現役の冒険者でありギルド職員のセフォン・ラスは、数日前に冒険者に登録した少年--ハノが気掛かりだった。
勝ち気で強情そうな目力は、冒険者に向いている。しかし……少女と間違えそうなほどに華奢な印象を持ったのだ。
「……無事を祈る」
護衛を兼ねて初心者に付き添うのがギルド職員としての仕事だが、ハノは既にパーティーを組んでおりその対象ではない。構成メンバーは何れも実力者なのが見て取れた。
又、彼等の対応は明らかに格上に対する代物で、王族か貴族か何かの子息だと推測する。こうなると、彼を含めギルドは手出しできない……だから、無事を願い見送るセフォンだった。
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「--やった!」
ハノの弓は狙いを違わずスライムを串刺しにする。5体、3体、4体……10分もしない内に魔獣は一掃された。
「第一室はクリア。次からが本番ね--行くわ!」
子供になっても衰えてはいない腕に安堵する一行。懐かしさと感慨を抱きつつ魔方陣に立った。
第二室からがエンジール・ファソナの始まり。転送される度に様相が一変する特異な迷宮攻略は、始まったばかり。気を引き締める彼等だった・・・。
†††††
「しつこいな……《土震波》!」
ゴォウ…!セラスの魔法が発動し、土の表面がうねり泥状の波と化した。
ゴブリンやオーク、リザードマンなどが飲まれ、藻掻く様は魔獣といえど気分が良いものではない……。
「《火電球》!!」
バチッ!火花が走り魔獣が業火に包まれる。耳障りな苦鳴が途切れ小さくなる……が、炎の中に幾つもの小さい影が揺らぎ、ひらひらと舞うのが見えた。
「来るぞ!」
「嘘でしょ!!」
叫びに反応し、ランス・ボーカ--銃使が、目眩ましのために閃光弾を放った。
体長は小指の半分ほど……橙紅の翅を持つ、迷宮にのみ存在する焔葬蝶と呼ばれる魔獣は、上級クラスの冒険者でも命を落としかねない厄介な魔獣で、どこから現れるのか知るものはなかった。
魔方陣は室内の魔獣を一掃しなければ使えないが、ハノの実力を上げるためなので、完全攻略する必要はない。ギルド支給の簡易転送符を取り出し、途中帰還を実行--無事に脱出した彼等一行は、ショフェール・クファルの慌ただしさに呆然と……。
「無事だったんだな!」
「全滅らしい--」
「……生存者2名!魔法禍が4組だ!!」
「聖職者達を!白魔技……誰でもいい、人手が足りない!?」
状況が飲み込めない彼等を余所に、ギルド職員達はフル回転で想定外の事態に対応している。落ち着くのを待って……気持ちを切り替え宿泊所に戻ると、主人が心から破顔した。
「無事で良かった……」
「一体--どうしたんですか?」
グイオン・サウイ--黒魔技が問い掛けると、主人は痛ましげに顔を歪めながら、彼等に経緯を説明した……。




