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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第六章
71/141

少し長め

『お初にお目に掛かります、我が魔王』

 目の前に佇む白尽くめの魔技--彼の魔王は、前髪で表情は把握しにくいが、急に現れた“彼”--道化師に驚いているのは容易に推察出来た……。

“彼”は“世界”を名乗る声により状況を説明され、理解はしたもののどうして良いのか途方に暮れる。切っ掛けは、大規模な歪みが時空間を繋いだこと。そのことによって、サウファ・アーレムという世界に突如引き込まれた。

 人ではない“彼”が存在するためには、魔王に認められる必要がある。とも言われ挨拶してくるようにと--魔王というには疑わしい外見の、青年の元に送られたのだが……。 

『私めはこの地上迷宮(ヘルパーク)の意思、貴方様が管理をされる方ですね。以後よろしくお願いいたします』

「--名前はあるの?」

 一礼し顔を上げると、ペタペタと確かめるかのようにあちこちを触られ戸惑う。

更に追い打ちを掛けるような科白が“彼”に投げかけられた。

「触れるってことは実体があるんだね。名前があれば教えてくれる?呼べないのは不便だよ」

『そのようなものはありません……とうに忘れ果てました』

 元の名前ははっきり言って覚えてはいない。Hから始まる名前だったが、放置され朽ち果てる内に文字が抜け落ちてしまったからだった。

「地獄の道化師(clown of the hell)--この世界だと、アト・クローウンって言うんだ。見たままだけどいいかな?」

『認めて頂けるのですか?』

「魔王は迷宮の管理者だよ?認めるってのが分からない……」

 微かな笑みを含んだ口元と穏やかな雰囲気に安堵し、“彼”はその名を受け入れる。迷宮の管理者(オーナー)の忠実な右腕であることを強く望んで・・・。

†††††

「……どうなってるの?」

「……」

 集っている魔王達は困惑し、スェタナ・イェスチは重苦しい不可解な沈黙に支配されている。と--。

「え…と、久しぶり?」

 聞き取りにくい囁きと共に、姿を見せたのは白尽くめの魔王--ラフマ・キナウだった。

「ど、どういうことじゃ!」

「無事だったのね!!」

 魔王達に詰め寄られ質問攻めの状況を解消したのは、滅多に姿を見せることのないナスヤーニ・メシュケル--“忘却の万華鏡”の呼称を持つシア・ディーイーだった。

「騒がしいな……其方が無事で良かった」

†††††

 魔王ラフマ・キナウが最初に取った行動は、迷宮内の冒険者達や従業員を速やかに避難させること。アルヴァロ・マーロの大迷宮が、クルヴァーティオと化し勇者召喚が行われた。

 最も近い位置にあるエンジール・ファソナへの影響を最小限にするために、自らも避難誘導に当たっていた。

 その中で、阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡る。非常事態が発生したことをドゥーフが知らせ、行き着けば全身きらきらしい甲冑に身を包む、覇気を纏った勇者がいた。

 重量級の巨大鎚を片手で扱い、壁と言わず床と言わず粉々に破壊され、ドゥーフが一生懸命に足止めしていた。

「何故、勇者が迷宮(ココ)においでか?」

「あぁ~?わかんねぇか!魔王退治さ--邪魔する奴ぁぶっ潰してやる!!」

 迫る攻撃を《印章盾》で弾き返し《光針盾》で牽制。ドゥーフ達を含めて避難させ、勇者を観察する。スキル--勇者補正が働いているのか、大してダメージは受けていないようだった。

「手応えある奴がいたか……魔王ってのはどこにいる!でてきやがれぇ!!」

 口汚く罵り咆吼する勇者は、何とかの1つ覚えのように、単調な攻撃を繰りだしそのスピードは極めて遅かった--。

                          ◆

 勇者なのに魔王討伐が仕事じゃないってのが理解出来ない。あの爺のようなのは鬱陶しいから従順な振りで大人しくしていた。

 勇者として実力が付き魔王討伐だと期待していると、お供がぞろぞろ付いてきた。

 クルヴァーティオ浄化を見届ける?邪魔なんだよ!俺はアルヴァロ・マーロに突入--実際に入ったのはお供の目から逃れるためだ。

 南西方向に木々の間を抜け開けた場所に出ると、キラッキラッと光を弾く砦のようなのがあって、俺は歓喜して存分に獲物を振るうと、悲鳴が上がった。

 迷宮の壁が粉々になり、魔獣が逃げ惑う。これが勇者の醍醐味!しかし、魔王がいねぇ……と、俺の周囲を何かが巡って、鬱陶しいこの上ない!!

「何故、勇者が迷宮においでか?」

 囁きのような科白は不思議と耳に届き、俺は目が点になった。前髪が鬱陶しい根暗な……全身白尽くめな魔技なんて初めて見た。魔法を警戒しつつ攻撃したら思いの外、強くて--。


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