魔王の箱庭
成り立ちはこんな感じ
世界最大と言われるアルヴァロ・マーロ。
そのほぼ中央に突如出現した丘陵は、その足下にサウファ・アーレムのものとは全く異なる構造物--異世界のテーマパークを抱えていた。
「--場違いだ」
丘陵の頂にある、宿泊施設--魔王城から眼下を眺め呟く。棄てられ荒れ果てた廃墟は、テーマパークという名の地上迷宮にリニューアルした。
全てを取り仕切ったのは彼--シア・ディーアルではない。妄執や情念の残滓、幽霊や付喪神のような存在が集い凝縮され、実体化した“意思”--アト・クローウンだった。
『どうです……見違えたでしょう?』
音のない“声”は陽気に満ちており、振り向けば仮面が笑っているように見えた。
「迷宮じゃないよ、これ……」
『だから良いのです、先ずは人を集めること。初心者向けですし、アトラクションのカモフラージュにもなりますよ?』
†††††
「あり得ないよ……」
クルム・メレフが呟く。
「どう見ても遊園地じゃの?」
「だが、歪みは解消されている。新しい迷宮が誕生したのは間違いないわ」
ヘレシャー・グァナンの科白に、クランクルム・サチェドゥーズ--“狡猾なる巫女”の呼称を持つシア・ディーイーが答えた。
彼等がいるのはスェタナ・イェスチ。透見の魔鏡に映し出されている光景は、彼等の想定の遙か斜め先を行っていた。
「魔王は誰だろう?彼のお方はお隠れになったし……」
「そういえば、あいつはどうなった?連絡付かないぞ!」
アルヴァロ・マーロの南西、大森との境には小規模の迷宮がある。彼等と同じシア・スェターナが管理していたが、大迷宮のクルヴァーティオ化とそれに伴う事象から、連絡は付かず迷宮そのものも確認出来ないのだ。
「無事ならいいんだが……」
誰ともなく呟き、重苦しい沈黙に包まれる魔王達だったが……。
リリ。リリリ…リリ。リ…!着信音と共にメールが彼等の前に送られてきた。
「呼び出しかぁ」
「そんなに長かったかしら?」
差出人も宛先もないそれに手を触れた瞬間、パシッ!と、乾いた音を立てて人影--道化師が現れた。
『お初にお目に掛かります。多忙な我が魔王に代わりまして、私アト・クローウンがご挨拶に伺いました』
慇懃無礼で隙のない所作は洗練され、優雅な一礼に魔王達はどう振る舞っていいのか分からず、沈黙を保った。
『皆様がご存じのように、アルヴァロ・マーロに新しい迷宮が誕生いたしました。スェターナ・サート--ラフマ・キナウ様の迷宮にございます。近日中に開園いたしますので、今暫くの間お待ちくださいませ……では、失礼いたします』
アト・クローウンと名乗った道化師は優雅な一礼と共に掻き消え、魔王達は只呆然とスェタナ・イェスチにいた・・・。




