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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第五章
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『失礼いたします。書簡をお持ちしました』

 ハルト・ゼーカ--自我を与えられたホムンクルスは、居住まいを正し主人の私室の扉を開けた。

 広い室内にも関わらず、圧迫感を伴うほどに狭く感じるのは……世の東西を問わず集めた羊皮紙や竹皮紙などの束が堆く積み上げられ、乱雑に開かれているのが最大の要因だった。

 文字に餓えていると公言するティディエ・ディーアル--迷宮マクヴァラ・アルーシュを管理する魔王は、聞こえているのかいないのか背を丸めブツブツと何事かを呟きながら、一心に読み耽る。それを遠い目で眺め1つ息を吸い--。

「あいたぁ!ワアァァ……崩れたぁ!眼鏡がぁ!!」

 素っ頓狂な声を上げて大騒ぎする青年を冷ややかに眺め、騒ぎを止めるべく次の科白をした。

『差出人はシア・ディーアル…ラフマ・キナウ様です』

 その科白にピタリと動きを止め、後頭部を直撃した書簡を解き目を通したが、眼鏡がないのに気付き探しまくる魔王……只でさえ乱雑な室内は、目も当てられないほど様相をなした。

「……宴の準備だ!」 

『どうされたのですか?』

「“英雄”が戴冠するのさ!!」

 歓喜の余りテンションMAXに陥った魔王だったが、書に足を取られ思いっきり滑り転けた。

「た、楽しくなるぞぉ……」 

 目を回したのか弱々しい声を上げる主人にどん引きするハルト・ゼーカは、嘆きに近い溜息を吐いて一礼し、魔王の私室を後にした・・・。

†††††

『宰相殿。お邪魔しても宜しいか?』

 “英雄”についての事後処理に集中する宰相ミカルディスは、音ではない“声”に手を止めて顔を上げ……驚愕した。

『単刀直入に--“栄光の御手”が帰還しなかったのは確かか?』

 ミカルディスの前にいるのは、サーフ・クィラア--“純粋なる読者”の呼称を持つ魔王の側近であるウェラー・ラスル--式神が立っていた。

「彼等は偽物でした。“栄光の御手”は復権出来ません」

『ふむ。真の“英雄”は何と申す?』

「“勝者”ヴィクトール・セライをリーダーとする彼等は無名……相応しき称号を考えているところです」

 ミカルディスの科白にウェラー・ラスルは、我が意を得たかのように笑んで見せた。

『これは我が主人の書簡。確かに手渡したぞ!』

 1枚の羊皮紙を執務机に置かれ、魔王の側近はかき消える。状況に戸惑いつつ羊皮紙に目を通したアトルバスタ宰相ミカルディスは、大きく息を吐いた。

--魔王サーフ・クィラア。

 “理”に従いヴィクトール・セライを“英雄”と認める。

 称号“秩序の担い手”を、彼と共に在りし一行に贈与せしめる。

 尚、その治政の安からんことを願う--

 直筆で綴られたその内容は、ヴィクトール・セライ一行がティディエ・ディーアルの承認を得たことを証明する代物。何人も覆す事が出来ないお墨付きに、宰相ミカルディスは無事に事態(コト)が終わったことを実感した・・・。



 



  

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