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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第五章
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勇者と魔王

「はぁ!」

 気合いと共にロディのナイフが魔人を襲った。

 アルデの顔が嘲笑を刻み5本のナイフは全て弾かれる。その隙を利用して至近距離から毒を塗ったダガーを喉元に突き立てた--が、切り裂かれた喉から夥しい血が流し、倒れたのはロディの方だった。

 ぴくぴくと痙攣を繰り返し程なく動かなくなった芸人を、魔人は容赦なく踏み潰した。

「いけ!」

 グラウは巨体に似合わぬ俊敏さで、道化師を得意の軟体芸で拘束し叫ぶ。セアの剣舞がグラウ共々襲い、道化師は無傷のままグラウだけが切り裂かれて屍体となった。

『見事な腕ですね、魔王様が見込んだだけのことはある……ぜひ、従業員になって頂きましょう』

『そりゃ、楽しみだ』

 道化師と魔人に挟まれ彼は焦る。目まぐるしい展開と流される大量の血に、奥底の存在が蠢き始めていた。

 彼が捨てられ隊商氏族に拾われた原因。暗殺者になる切っ掛けになった存在(ソレ)は、感情のセーブが効かなくなると蠢き出し……彼を操って大量殺戮を引き起こす。喉元が火傷をしたときのように熱くなった。

 焼こうが削ごうが喉元の痣は消えることがない。この痣が疼き出すと乾いた女の声が脳裏を駆け巡り、セアの精神は封じ込められてしまう……。

 久しく起こらなかったそれにグラディウスを構えて後じさる。大量殺戮は、彼が最も忌避し厭う行為で、魔人だろうと何だろうと肉を裂き骨を断つのはしたくなかった。

『何もしませんよ。残っているのは1人、初めから採用するつもりだったのは貴方だけです。どうです、改めて--?』

 そこまで科白を紡ぎ道化師--アト・クローウンは視界のずれに首を傾げる。魔人--ザイフ・シラマーニは感嘆の口笛を吹いた。

 アト・クローウンの身体は水平に3分割されていた。

『気付かぬ内に分断されるとは……』

『何者だ?』

 感心するアト・クローウンを横目にザイフ・シラマーニは、変化した芸人の気配に眉を潜める。何かに耐えるようにしていたセアは、突如高らかな笑い声を上げた。

「我ハ“支配女神(エクセグラン)”。我ガ僕ガ欲シイナド言語道断--我ハ世界ヺ統ベル者。従ワヌ者二死ヲ!!」

 磨き上げられた薄刃のそれが、素養を帯びて濃い血色に染まった。

「滅ベ!」

 瞬速の剣風が襲い掛かった。

 ガルディノには従業員以外に入場者--人々が多数いる。彼等がこの事態に対応するのは不可能。増して、アト・クローウン、ザイフ・シラマーニでも対応出来るかは未知数だった……。

「《印章盾(ハトゥーム)》」

 聞き慣れた声と共に、凄まじい放電と閃光が走る。女神を名乗るセアは衝撃波に蹈鞴を踏み、頬や胸の辺りから血を滲ませていた。

『『!?』』

「安全な場所に避難を。勇者のなれの果てには無理だよ--」

 彼等の間に割って入ったのはラヴァン・ソルティスだった。

「我二逆ラウトハ……愚か者メェ!!」

「避難せよ!!」

 襲い来るセアの剣戟をシア・ディーアルの《印章盾》が防ぐ度に閃光と放電が走った……。

†††††

 勇者達はそれぞれに見合った装備を用意されている。勇者仕様と言っても、甲冑や武具は歴代勇者の装備に属性強化や耐性、練度向上やクリティカル向上を付与したもの。それが何度も繰り返され、甲冑や武具は勇者仕様に相応しい代物になった。

 しかし、勇者には魔技も存在している。そのため、防御力が無きに等しいローブには無属性を除く7属性への耐性と物理攻撃の軽減を組み込み、杖には勇者本人の素養と身体強化を付与--魔工芸師(アーティスト)が苦心の末に生み出た特別仕様だった。

「……随分派手だね」

 その呟きに司祭長ユーリフは内心で賛同する。アーティスト達が勇者--救世至人に用意したのは、シンプルに見えて凝りすぎた代物だった。

 薄白の絹地を幾重にも重ねる。その間には各属性《印章(シール)》をびっしりと張り巡らせて、魔法耐性そのものを持たせた。

 その上、装飾に見せかけた銀と白金の糸で物理耐性強化を施しており、素養を乗せれば完璧に近い防御能力を発揮するのだ。

 だがそれは、一切の攻撃魔法を持たない彼を守るためなので、やり過ぎとは思うが納得は出来た……ユーリフが理解出来なかったのは、その手を覆う長手袋だった。

 その手袋に防御機能はない。甲の部分に勇者の証を刺繍しただけに見えるが、施こされた象眼細工は魔力を吸収蓄積して、素養を常に維持出来るように--魔力の枯渇を防げるようにしていたのだから・・・。 

 






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