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「無事の生還を……」
宿泊所の主人の言葉を背に村を後にする“鷲獅子の鈎爪”一行。タレーは占ってくれた魔技の姿がないことに若干気落ちしていた。
今日の出発は彼の助言に従ったからで、挨拶したかったのだ。
「先ずは樹海だね」
エストの言葉に一行は気を引き締める。アルヴァロ・マーロは、かつて最大規模の迷宮と小規模だが変わった迷宮の2つがあった。
魔王の消滅により2つの迷宮は浄化され、これから向かう迷宮が新たに出現したのだ。
「整備されてる……!」
村から続く砂利混じりの道を進み、樹海の入口に付いた一行は、驚きの声を漏らした。
馬車2台がすれ違えるだけの、舗装された石畳の道が真っ直ぐに伸びている。楽しげな親子連れ、興奮しはしゃぐ男女などが彼等の方に向かってきた。
「あんた達も行くんだろう?」
「こんあに楽しいことはないよ……いやぁ、疲れが吹っ飛ぶ」
「あのね?とっても楽しいの! 絶対もう一度行くのよ」
口々に感想を述べ去って行く。戸惑いつつ歩いていると、すれ違いに陽気な挨拶を人々は投げかけてきた。
「とても……樹海には思えない」
元々は昼間さえ真っ暗で、そこかしこに怪しい気配があった。
実際、迷宮へ辿り着くよりも、樹海を進む方が遙かに危険だった。
何より、樹海に入って無事だったのはある程度の実力がある冒険者に限られていたし、村や街の人々は入口周辺より先には行くことはなかった。
それが今は切り開かれ整備されたことで、陽の光に染められた空間になっていたのだ。
だからといって、人の手によるものではないのは明らかだった。が……。
「わぁ……」
思わず歓声が漏れる。行き着いた先にあったのは、豪奢な色彩と濃密な芳香を放つ薔薇のフェンスにアーチだった。
アーチの長さは10ナプラ(100m)あり、そこを抜けると浮き彫りのゲートが現れ……ゲートの最上部には鈍色の金属プレートが掛けられており、彼等――この世界の人間が識らない文字が綴られていた。
――――“Welcome to Hellpark”と――――。
「名前かな……読めないけど」
「いずれにしろ、油断するな」
その一言に気合いを込め“鷲獅子の鈎爪”一行はゲートを潜った・・・。