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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第五章
58/141

「まぁ、仕方ないさ。サービスだよ」

 宿泊所の主人は芸人達に香草茶(ウプリ)を振る舞った。

 聞いた話だと、不採用でも芸人に対する待遇が違いすぎて混乱し、興行主とトラブルになることも多いらしい。仄かに甘い香りがするウプリを口にすると、精神が安らぎ嫌な気分が霧散していく……飲み干したときには、活力とやる気が感じられた。

「人心地が付いた……次こそは採用されるぞ」

 口々に芸人達は礼を述べ帰って行った。

 ラヴァン・ソルティスが教えてくれたレシピの効果は覿面で、宿泊所の名物にしても良いかもしれない……そんなことを思う主人だった、が……。

 閉鎖が解かれるのは未だ先。数日後には新たな芸人達がやって来るのが分かっていた・・・。

†††††

 採用された7人は大小の広場で、客はいないがパフォーマンスを展開し、完成度を高めるのに余念がない。彼等の後にも芸人達がやってきて、採用されようとパフォーマンスを繰り広げているのを目にした。

 油断していては、折角の採用が取り消しの可能性もあったのだ。

 そうして日が過ぎ、今回の募集で残ったのは“御使の羊”と3人のパフォーマー。新たに選ばれたカード使いの8人--4日後には客の前でパフォーマンスを披露することになり、彼等は気分の高揚を抑えきれずにいた。

                        ◆

 その日は快晴。気候も良く入場者が次々とやって来る。誰もが期待に満ち8人のパフォーマンスに歓声が上がった。

 行き交う人々の流れが滞り、人の輪が出来ていく。釣られるように立ち止まる冒険者もチラホラあり……最も注目を集めたのはセアの剣舞だった。

 グラウ達は休憩を取る振りをして観客達をチェックする。そして、目当ての--ラヴァン・ソルティスを見つけた。

 が、余りの無防備さに警戒心が頭を擡げる。人混みの中でセアの剣舞を堪能しているらしいが……と、ヒュン!空を何かが過ぎり、無防備な背中に光を纏わせた矢が飛来した。

先に仕掛けたのはアクロバティックなパフォーマンスをしていた3人。ほぼ同時の攻撃がラヴァン・ソルティスを見舞うが--倒れたのは観客の1人。しかし、血塗れの屍体に見向きもせず観客達はセアの剣舞を眺めていた。

 冷たい視線にぞくりと背筋に冷たいものが走ってセアは剣舞を止め、グラウ達“御使の羊”も身動きは出来なかった。

 観客達はくるりと背を向け、驚愕する3人に襲い掛かった。

 凄まじい悲鳴が上がった。

 バキッ!ボキ…グシャッ!グジュル…‥・おぞましい骨が砕け肉が潰れる音に、鉄錆びた異臭が混じり--ガツ、ピシャッ!バリッ、ムシャ…骨を噛み砕き、肉を咀嚼する音が響いた。

 観客達は芸人達を食べ尽くしていく。その光景にたまらず顔を背け離れる“御使の羊”一行とカード使いだった・・・。


 


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