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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
閑話Ⅱ
53/141

探索者は語る

「やはり、ここで正解だったな!」

 そう叫んでグレートソードを振るう。リザードマンが倒れ、鼻をつく臭気と共に消滅すると緑がかった魔雫の欠片が転がった。

「欲をかかなければ稼ぎはいい、何より自由だ」

 俺の職業は冒険者。日常を嫌い平穏を避け、非日常を追い求め一攫千金と名声を狙うろくでなしだ。

 初心者や駆け出しは兎も角、中堅所にもなると有名だったり難易度の高い迷宮の攻略に赴く。通常はそうだが、中には俺のような変わり種もいる……俺はパーティーってのが嫌いなんだ。

 誰かと一緒に迷宮を攻略し、共同生活と会話をするってぇのが性に合わないんだ。

 俺がいるのは、エンジール・ファソナ--“福音の城砦”と呼ばれる小規模な迷宮。シア・ディーアルが管理している。魔王の姿は見たことがない、噂で聞くだけだ。

 最も、冒険者の前に魔王は簡単には姿を現さないので、珍しくもないが--俺がこの迷宮に籠もるのは、ここが性に合っているからだ。

 小規模とはいえ入口は3つあり、内1つは初心者や駆け出し向け……専用と言っていいが、俺のような中堅所や上の冒険者もチラホラいたりもする。

 ソロプレイに拘っていたり、アルヴァロ・マーロの大迷宮に向かう前の調整に活用する奴が殆どだが……俺は、違う。俺に言わせればこの迷宮は一筋縄ではいかなかった。

 入る度に迷宮は構造が変わり、初心者向けだからと油断すれば命を落としてしまうのだ。

 しかも、ソロプレイだとパーティーと違って生還率は下がり、致死率は跳ね上がる。その理不尽さと不条理、不自由が俺は好きなんだ・・・。

                        ◆

『何を読んでおいでですか?』

「こういうのを見つけてね、どんなだったかと……」

                        ◆

 どれ位ここにいるんだろう? あれから何度寝て起きてを繰り返しているのか……13回を数えたところで止めてしまったから、正確なところは分からない。しかし、かなりの日数が過ぎたのだけははっきりしている。固くてもいいから、ベッドに寝たいものだ……。

 食べる物は保存食と不味いがオークやリザードマンの肉--魔雫を落とす奴は稀だ。

 それすらの残り僅か……調達が出来ないのだから、食べてしまえば飢え死ぬだけだ。

 ここから出る術はない、完全に絶たれている。何故なら……エンジール・ファソナは外界と完全に隔絶されて閉ざされ、迷宮としての機能を失っているのだから・・・。

†††††

「この震動は異常だ! 出口は……」

「こっち……とにかく脱出するんだ!」

 上下に揺れたかと思うと左右に大きく振られ転びそうになる。いつものように迷宮攻略に勤しんでいると、轟音に迷宮そのものが震動した。

 魔獣や冒険者達は右往左往し、出口を求めて我先に逃げていく。俺も名前は知らないが、冒険者一行と脱出を図っていた。

 しかし、天井の破片が俺達の上に崩れ落ちてきて--強い光が目を閉じていても眩しく、チカチカする。 よく透る“声”が降り注いだ。

《--光に従え。この迷宮は歪みにより閉ざされる……とく逃げよ、時は持たぬ--》

 今思えば、俺はここで命を落とすことが決まっていたのかも知れない。俺は“声”の持ち主を、エンジール・ファソナの管理者であるシア・ディーアルを見て、逃げるタイミングを失った。

 逃げるという選択肢が霧消し、ずっと見ていたいと思ったのだ。

 この記録が残るかは分からない……だが、”これだけは言える。俺は、この迷宮エンジール・ファソナに骨を埋めることを誇りに思う。この迷宮こそが俺の死に場所なのだ・・・。

                        ◆

『--情熱的ですね』

 もやもやとしたものに戸惑うアト・クローウンの科白に首を傾げる魔王。

「そう?冒険者ってね、この手のメモとか日記みたいなの、残してることが多いんだ。使い古した羊皮紙の切れ端や木皮紙使ってるから、たくさんあってね。集まってきたら適当に組み合わせてみる……あ、これは普通の迷宮用にしてね」

『創作ではないのですね?』

「そんな才能は無いよ。只の暇潰しだね、これは……だいぶ前の代物だねぇ。以外と文章になってるんだ」


 手の中に納まるほどの、ボロボロに近い羊皮紙の束をアト・クローウンは受け取る。確かに、宝箱か何かに入れていればそれなりのお宝になるだろうと判断した。

 が、それよりも気になったのは迷宮の呼称。スェターナ・サートが出現する前、絶対の忠誠を誓った目の前の魔王ラフマ・キナウが管理していたらしい迷宮は、どんな代物だったのか?強い興味を覚え、是非に聞き出したいと考える忠実な従者だった・・・。


                






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