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「《極光雨》!」
「《雷縛鎖》!」
エロエ・ジェメオースの魔法が上空に放たれる。鬱蒼と生い茂る樹海を抜けた2つの魔法は、放物線を描いて標的に降り注いだ。
吹雪の魔法はファメス・パウクをズタズタにし、藻掻く巨躯を一颯の魔法が網となって封じ込める。もぞもぞと蠢くそれらは、逃れようとするが抜けられず薄気味悪い不協和音の叫びを上げた。
「《燦焱柱》!!」
「《霊風漸!」
新たな魔法が放たれ、ファメス・パウクは焼かれると同時に切り裂かれ塵と化しては、ボロボロと崩れていく。巨躯は見る間に崩れ蠢くがその動きは鈍い……。
「《破妖光閃》!」
エロエ・タドゥミールは、勇者としての特性“煉獄主”が顕現し、將人が一閃する度にパウクは次々に滅ばされ、終には残骸すら残さずに消滅した。
「や、やったね……」
「凄いやぁ--勇者だよ!」
死闘を制したと歓喜する3人の勇者だったが……異変に気付いたのは一颯だった。
剣を支えに膝を着くエロエ・タドゥミール。兜と甲冑の僅かな隙間から、這い出したのは一匹のパウク--青ざめる彼を怪訝に思う間もなく、將人は剣を手放してのたうち回りパウクが何匹も這い出して……。
「!?」
突然の恐怖に吹雪は意識せず魔法を放ち、エロエ・タドゥミールは業火に包まれた。
「ひぃ!」
業火に焼かれる將人から糸を引いて這い出てくるパウク。魔力さえあれば幾らでも増殖出来るという事実は、エロエ・ジェメオースを恐慌に陥らせ正常な判断力を失わせた。
「…め。こ、のぉ……がぁ!」
火達磨になったエロエ・タドゥミールは起き上がろうとしてそのまま動かなくなり、エロエ・ジェメオースは少しでもパウクから遠ざかり次々に魔法を放った。
奔放に伸びる樹木が壁となり逃げ場をなくす。魔法を浴び続けたことでパウクは数を増し、黒い絨毯が2人の少年に向かってきた……。
「馬鹿な真似しやがって--《破妖光閃》!」
黒い絨毯が2つに分断され、その先には將人が立っている。甲冑はあちこちに煤が付いており、焼かれたことを示していた。が、エロエ・タドゥミールは怪我も火傷もしているようには見えなかった。
「死んだんじゃ……」
「だと、思ったがなぁ--話は後だ!」
何度も必殺技を振るう將人は、別人のように強くなっており唖然とするしかない。ガサリ……樹木が揺れた。
「《氷刃》!」
一颯の魔法に引き千切られたのはギャンベイル--吸血蔦。生い茂る樹木の間を縫って、何本もうねうねと伸び……3人の勇者は背中合わせで戦わざるえなくなった。
「こいつ等は俺が殲滅する--そいつ等まで手は回らない!」
「任せて!」
「分かった!一颯、手を貸して--」
吹雪の黒杖に一颯の手が重なり、勇者としての特性“聖贄”が顕現した。
「「《焔光蛇神》!!!」」
火炎の大蛇がエロエ・ジェメオースを守るように囲み、その頭は8つに裂けてギャンベイルを樹海毎火に包む。そこかしこから上がった悲鳴が音の刃となり、彼等は切り裂かれた。
血飛沫と共に倒れ意識が飛ぶ--が、頭だけが揺り動かされた感覚と共に、2人は生きていることに戸惑う。しかも、素養だけでなく身体能力や体力も向上し……2人は、某キャラクターのようだと思ったのだ・・・。




