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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第四章
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3人の勇者達

彼等の見せ場……無双はしません

「くそ…っ!」

 將人--エロエ・タドゥミールは歯を食いしばる。勇者仕様の甲冑がなければ、腕を切り落とされていた。

 今まではどんなに傷を負っても、痛みこそ残れ無傷で、疲れるという記憶は無かった。

 しかし、今回は僅かでも傷を負えば血が流れ痛みが襲ってくる。その上、疲労が蓄積するのを自覚せざるえなかった。

「まって、《回復》を--」

「無駄使いするな、ポーションで充分だ」

 吹雪を制し薬を飲み干す。エロエ・ジェメオース--双子の少年も疲労の色が濃く、強がってはいてもフラフラなのははっきりしていた。

 とりあえず、魔道具の結界で安全を確保し対策を考えるしかなかった。

†††††

「な、んだ……」

 光を目指して密林を抜けた3人の勇者を待っていたのは漆黒の彫像。その右手には、巫女王アリセプテが言っていた勇者の遺物である“善能の巨盾”。左手にはかつて戦ったと言われる魔王の遺物である“正義の王剣”。身に付けているのは2度目の勇者の遺物である“使徒の甲冑”だった。

 彫像を中心に半径2ナプラ(20m)には、草木一本生えておらず魔力が感じられない。魔力を吸い上げているのは、彫像そのものだった。

「先ずは--《炎撃》!」

「《雹雨(ヘイル)》!」

 吹雪と一颯の魔法は右手の盾が吸収し効果を発揮しない。將人は跳躍し素養を纏わせて、剣を振り下ろしたが、甲高い金属音が空気を切り裂き將人は弾き飛ばされた。

 彫像の左手がなめらかに動き、弧を描いて剣が鞘に収められ--静寂と湿度の高い空気が勇者達を飲み込んだ……。

「あの盾さえ……」

 最大のネックは右手の巨盾。魔力がなければ魔技は一般者、彼等が嫌い見下す凡人と同じ立ち位置に……肉体的な部分を考えれば、下に位置する可能性もあった。

「何でも良い、魔法を放て……その隙に左手を叩き落とす。上手くいけば、あの盾が使えるぞ」

 逡巡するが、盾を引き剥がせば魔法は制限なく使える。了承しエロエ・ジェメオースは立て続けに魔法を放ち、彫像の注意が彼等に向いた。

 その間隙に將人は魔法をかいくぐって、狙っていた盾の直ぐ上……二の腕を切りつける。予想に反してずぶりと彫像の腕は千切れ盾が転がった。

「《光小精》!」

 吹雪の魔法が彫像の左半身を直撃し、千切れた腕の間から糸を垂らすおぞましい蟲が消滅した。「!?」

 転がった盾からもぞもぞと這い出て群がるのは、細長い八本の足を持つ黒光りする小さな“蜘蛛(パウク)”。磨き上げられた鏡面の巨盾は曇って錆び付き、魔道具の結界に釣られるように集まってくるその様は、生理的恐怖と嫌悪を与えた。

 3人で競い合ってきたため道具類は揃えている。魔道具の結界を新たに2つ作動させ、できる限り魔法を使わないようにした。

 甲冑は兎も角、王剣を剥ぎ取るためには時間を稼ぐ必要がある。同じ手が通用するかは不明だが……。

「お前達は休んでろ、剣を落とす」

「ちょっ……無茶だよ!」

「大人の言うことを聞け!」

 眼鏡を押し上げ睨み付ける將人。助けるつもりはないが、この状況ではその選択肢しかなかった。

「だったら、これ。光魔雫……光属性が弱点だから、有効かも」

 ここにきて吹雪と一颯は競い合いを放棄する。魔法が使えなければ、彼等は非力な子供でしかない。頼りたくはないが、それしか選択肢がなかったのだ・・・。

 



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