白の勇者
とりあえず1人目
クルヴァーティオに3人の勇者が突入すると、枯れた下生えの平原はその様相を一変させた。
乾いた地面が柔らかくなり、油断すると足を取られる。平原は湿地帯となり、亜人や獣の残骸、魔獣の遺体なども飲み込んでいく……結局、丘陵の麓まで戻らざるえなかった。
「……《封縛》が解けたんだね」
「勇者殿、あれは攻撃魔法では?」
その問い掛けにエロエ・ヴァイスは首を傾げる。攻撃魔法が扱えないのを知っているのに、聞く理由が分からなかったのだ。
「……その指輪をどこで?」
マウロサの問いかけで、ラグランが聞いた理由を理解する至人。
「アドエアでね、隊商氏族から宝石を貰ったんだ……治療したお礼だって。使いようがないって言ったら、指輪に加工してくれた」
「1つだけですか?」
「3つもくれてね、魔鉱石よりも素養を帯びやすいらしいし……さっき使ったのは無属性。物理的な効果がある盾だよ」
屈託のない勇者に、何故か胸騒ぎを覚える副団長アルオ。だが、それを突き詰める間もなく……ゴポッ!ゴポッ!気泡の弾ける音が響くと、泥が幾つも伸び上がりルトゥム--“泥人”と呼ばれる、魔獣が襲い掛かった。。
「燃え上がれ--《焔霊》!」
マウロサは呟くと火の属性魔法を唱える。水分を奪われ砂に還っても、湿地のせいか次々に現れきりがない。と……。
「《水霊天使》
至人の右手に嵌まる蒼碧の宝石が煌めき、4枚の鳥羽を背に持つ半透明の人のようなものが、現れた。
「奪え、涸れさせよ」
その科白に人のようなものはルトゥムを砂に戻し、湿地帯は水が吸い上げられているのか、皹割れ乾いていく……。
「休め、暫し--」
唖然とする騎士団とマウロサを気にもせず、至人は指輪を軽く撫でた。
アドエアの地下から聖都ドゥーエに転送される前に、彼の元を訪れたのは、この世界では認識されないドゥーフ--“精霊”と呼ばれる存在だった。
あの後、纏わり付く気配を捕らえ指輪に住まわせた。
1つ目の指輪には風と闇。2つ目の指輪には水と雷。3つ目の指輪は魔道具の1つで、隊商氏族によると護身用らしい。水気を奪われ藻掻くように砂塵が地を這った。
「《治癒》」
エロエ・ヴァイスの指が皹割れた地面に触れる。“治癒師”の特性が発動し、白光が大地を満たした。
「おおぉ……」
感嘆の声が自然と沸き上がる。瑞々しく青々とした草原が広がり、風が波のように渡っていった。
「じ、浄化されたのですか?」
「あくまで一時的だよ。クルヴァーティオが浄化されないと、戻ってしまうよ」
ラグランの問いに、誇るでもなく淡々と事実を告げるエロエ・ヴァイス。一行は畏敬の念を抱くが、マウロサは違和感を覚えずには居られなかった。
(なぜ、こんなに平静でいられるのか?なぜ、いつも笑みを……!?)そう考えて、あることに気付く。
記憶を振り返れば、目の前に佇む青年の表情は口元で判断していた。
鬱陶しい前髪で顔の半ばまでが隠れ、細かい表情は分からない。小さめで抑揚の乏しい声音と平穏そのもののオーラ、笑んでいるように見える--それだけで、誰もが温厚な人格者だと信じ、慈悲深い……他の勇者の傍若無人な振る舞いが、更にそれを際ただせたのだ。
では、エロエ・ヴァイス--彼の勇者の本当の姿は・・・。




