魔境への道
「--ご武運を!」
巫女王アリセプテを筆頭に聖都ドゥーエ、属邦アドエアの人々に見送られ、勇者一行は騎士団長ラグラン率いる騎士団精鋭と記録係の聖職者マウロサと共に、クルヴァーティオ浄化へ向かった。
行程は馬でほぼ2日。元々は湖だったが、3度目の勇者が召喚された時は湿地帯だったらしい。しかし、《封縛》によって閉ざされたため、現在は不明なのだという……。
「やっと着いた」
丘の上から見下ろすクルヴァーティオは、樹海のような森に見えた。
光の加減で波打つ虹彩が《封縛》らしく、超えられるのは勇者だけらしい……。
「我々がいけるのはここまで……」
「記録係なのに行かないの?」
「ここより先には進めないのですよ、《封縛》は勇者以外のいかなる存在も排除する」
「クルヴァーティオの中は俺達だけ--本当の実力が試されるのか」
腕が鳴ると意気込むエロエ・タドゥミールに、魔法で蹴散らしてやると宣誓するエロエ・ジェメオース。騎士団は呆れつつ彼等が行ける限界--枯れた下生えが点在する平原まで進んだ。
約120ナプラ(1200m)先の虹彩を超えれば、クルヴァーティオ。勇者だけしか入ることが出来ない場所。騎士団とマウロサは4人の勇者と暫しの間とはいえ、別れを惜しんだ。が……。
「ここからは勇者だけが進めます。貴方方の無事な生還を--!?」
ラグランは最後の科白を紡ぐことが出来なかったし、騎士団もマウロサも凍り付くしかなかった。
あろう事か、エロエ・タドゥミールが仲間であるエロエ・ヴァイスに剣を向けていたのだから・・・。
「警告はしたよ。自分達が望んだことを、忘れないでね」
その言葉を背に3人--エロエ・タドゥミール、エロエ・ジェメオースは枯れた下生えの平原を進んでいき、エロエ・ヴァイスは騎士団の方に向き直った・・・。
†††††
--詰んだ--。
それが、4人の勇者によるクルヴァーティオ浄化を注視している魔王達の感想であり、失望の呻きといっても過言ではなかった。
原因である魔王不在と現在に至るまでの経緯、3度の勇者召喚で浄化出来なかったという事実は、魔王達にとって脅威でしかなかった。
攻撃と防御……この2つを1人で両立するのは難しい。だから、今回は期待が大きかった。
4人の勇者の内3人が攻撃、後の1人が防御と明確に分かれ、パーティーとしてクルヴァーティオ浄化にあたるのだから成功率は飛躍的に高まる。にも関わらず、彼等--攻撃を担う3人の勇者は、防御を担う勇者を排除する方法を取った。
パーティーという枠組みを理解せず、無視した時点で浄化は不可能だ。と、唯1人の魔王を除き、動向を注視する魔王達は絶望のどん底につきおとされたのだ。
◆
「彼が存在のだから安心だわ……それとも気の毒なのかしら?」
シャン・ディーイーは2手に分かれた勇者一行を眺め、使い魔に宴の用意をするようにとの指示を出す。浄化の成功と新しい魔王の登場を確信して・・・。




