2
「勇者方の様子は?」
「相変わらずのようです……」
巫女王アリセプテは憂い顔で“理”に祈りを捧げる。勇者は必要だからこそ召喚され、そこに人となりや言動が考慮されることはない。だからといって、傍若無人な振る舞いがいつまでも許されるわけはなかった。
今回の勇者が厄介なのは、1人ではなく4人であったこと。それぞれの対応に手が回らず、民人に大きな負担を掛けたのは、彼女にとって大きな痛手になった。
無事に浄化出来ればいいが、出来なければ新たな勇者が必要となる……その時に、民人が支持するかどうかは分からない。エロエ・ヴァイス--そう呼ばれ慕われる勇者がいなければ、浄化どころかいつ暴動が起きてもおかしくない状況にあったのだから・・・。
「どうか、無事に終わることを--」
◆
「ゆっくり休まれては……どうされました?」
記録係の聖職者マウロサは、4人の中で最も勇者らしいと思っているエロエ・ヴァイス--至人の元を尋ねていた。
居室ではなくテラスで星を眺めている姿に、気後れしつつ声を掛ける。新月のため星明かりのみだが、灰銀の髪と白のローブが彼を耀かせていた。
「こんな夜空は、見たことない……それに、騒がしいから」
その科白に思い当たることがあり小さく溜息を付く。エロエ・タドゥミールは宴で大騒ぎした後、居室に戻りそのまま寝てしまっていた。
しかし、今一組のエロエ・ジェメオースは子供故に宴には最初しか参加せず、庭園の一角で魔法を競い合っていた。
結界があるため類は及ばないが、音や振動、甲高い歓声は騒がしいの一言に尽きた。
「でしたら……そろそろ戻っては?夜気に当たり過ぎると体調が--」
「《祝福》と《加護》なら、どっちが効果は大きいかな?」
唐突な問い掛けにマウロサは戸惑う。何故そんなことを聞くのか分からず混乱したのも事実だった。
「つ、通常なら《加護》でしょう……ですが、レベルが高い《祝福》なら、《加護》よりも--」
エロエ・ヴァイスの口角が上がる。正解だったらしい……そんな感想を抱いた。
「やはりそうだよね?問題は解決したよ、ありがとう--お休み」
笑みを貼り付けたまま勇者は居室に戻っていく。その後ろ姿に知らず畏怖を覚え、明日行われるクルヴァーティオ浄化の成功を強く願わずにはいられなかった・・・。




