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『--妙なところにおりますな』
『声を掛けても無駄よ、聞こえないもの--』
至人は周囲を巡る音のない声に、閉じていた目を開けた。
地下の暗闇で水に浸かったままの彼は、することもなくそこにいる。幾つもの“声”が周囲を巡っているが、その姿はない。
『何だろう……』
『……落ち着かない』
『人かな--?』
『変なの! 変なの……』
「君等は……お喋りなら、他でしてくれないか?」
その科白に“声”が消える。髪や頬に何かが触れては離れ、ザワザワと空気が震えるのが分かった。
「--僕は、この世界の人間じゃないよ?分かったら出て行って欲しい……?」
キィー…ン!甲高い金属ような音が彼を飲み込み--次瞬、乾いた空気が頬を撫でた。
「ご、ご無事で……」
「あぁ、本当にようございました」
「無事なお姿を--」
巫女王アリセプテを初めとする人々は顔をクシャクシャにしていた。
幽閉されている場所が分からぬまま、事態の収拾に当たっていると、水の流れが止まったとの報告を受けた。
壁にでも遮られたかのように、ぶつかり水面は大きく波打っていた。
残骸となった木々や岩は、逆巻く水に揉まれ激しく牙を剥くが音さえしない。そうする内に勢いは弱くなり、水は引いていった。
又、急に魔法が使えなくなった。突然魔法が消えたなどの報告があり、それは水が引くまで続いていたらしい。だから、無事であったことに歓喜と安堵の感情が爆発する。それを鎮めたのは、マウロサの一言だった。
「--水に浸かっていたのですか!」
その一言にそうだったと思い返す至人、見下ろすと足下には水溜まりが出来ていた。
「そうだね……あ、邦は大丈夫かな?水か何かが出たみたいだから」
「人の被害はありません。水は途中から流れ込まなくなりましたから……どちらへお出でたのですか?」
地下の何処かに幽閉されていた。との、報告を受けていたラグランは驚きつつ問い掛けた。
「さぁ?地下だったかな……あ、水は止まったの?流れ込まなくなったって」
「アドエアの手前で水は止まっております。壁か何かで遮られるように--他の勇者方を含め外で事態の収拾に努めておられます」
「良かった……」
口元の笑みに魔法を使ったのだと誰もが確信した・・・。




