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「Lvは……12!こんなにも早いとは、正直驚きです」
騎士団長ラグランは愕然とした。
幾ら勇者とは言え、1ヶ月と掛からずLv11を超えたのだ。
「条件は満たしたんだ、赴いてもいいだろう?」
將人の言葉に巫女王アリセプテは、表情こそ変えないが焦っていた。
試練の洞窟において彼等4人は急成長し、確かに条件は満たしている。Lvも問題ないし、剣の腕や魔法の実力もずば抜けていた。
しかし、パーティーとしては力押しに終始し、連携とは行かなくても、協力していこうという冒険者以下のLvにあり、恐らくだが、元の世界での基準で判断しているのが想像出来た。
そんな彼等がクルヴァーティオに、無防備(経験として)で赴くなど、“理”を歪めかねない危惧がある。クルヴァーティオは過去3度の勇者さえ、浄化出来なかった危険場所なのだから。
「その前に彼の地についてお話しなければなりません。今まで控えていたのは、余計な負担を掛けない為なのです--」
†††††
それは突如起こった。
鈍い地鳴りがしたかと思うと、ゴウォォォ……空気が震える。大河エルデの支流は、アドエアの西にあった。
川と言っても水深は浅く水量も少ない。それがどういう訳か水量を急速に増し、堤防などない河縁から溢れ、アドエアに向かって大地を這い始めた。木々がなぎ倒され、地面が削られる。水面が激しく波打ちながら、舐めるように飲みこんでいった。
クルヴァーティオ浄化を数日後に控えていた勇者達は、試練の洞窟に腕を鈍らせない為だ言って赴いており、残っているのは今1人の勇者だけだったが、何処にも姿がなかった。
白魔技アルオは直ぐさま試練の洞窟へ使者を出し、アリセプテ自らが事態収拾のため行動を起こした。
しかし、川の氾濫はいかなる手段を用いても止められず、民人を避難させるしか出来ない。アドエアが飲み込まれていく光景に、彼女は無力感に襲われていた。
更に追い打ちを掛けたのは、エロエ・ヴァイス--救世至人がどういう訳か、地下に幽閉されているという事実。詳細も不明だし地下のどこにいるのか、《探査》しても分からなかったのも、衝撃だった。
彼の者は、民人にとって希望に近い存在。彼がいなければ、勇者という存在自体が危うい……この事態が知られれば暴動が起こる可能性もあったのだ・・・。
「何故だ!何故、場所が分からない!」
「考えたくないが……双子のどちらかだろう。誰もが知っているはずなのに、気付いていない」
「勇者なら我々を弄ぶのはたやすいのでしょう……が、地下ということは、勇者殿が危ないのでは!?」
◆
「明るいか暗いかの違いだけだね?」
誰に向かってのことなのか、それとも独り言か……至人は暗闇の中で呟く。上の方から流れてくる空気はひんやりとして、地下だと当たりを付ける。まぁ、元の世界でも彼がいたのは似たような場所だった……地下ではなかったが。
「こういう場合は……」
思考を巡らせようとして、皮膚感覚が空気の震えを捕らる。湿った土の匂いが混じり、水音がするのに気付いた。微かな悲鳴や喧噪が耳を掠め感覚を研ぎ澄ますと(川が……)(水が!)(助けて……)人々が逃げ惑っているのが分かってきた。 どうやら……水に関わる何らかの事態がアドエアに起こっており、このままだと壊滅するのは容易く想像出来た。
「自然現象……人為的なら--《絶対防御》」
思案し、魔法を使ってみた。“理”=法則だと認識している至人は、《防御》の上位変換として考えたオリジナルと言える--発動者を中心とした範囲魔法が、水音が小さくなっていることで成功したと確信しに安堵した。
ぶっつけ本番だったが、何とかなったらしい……しかし、流れ込んだ水は膝上まであり、彼は身動きが容易ではない状況にあった・・・。




