2
引き続き投稿
アドエアの行政官エクセリは、執務室の窓からクルヴァーティオを遠眼鏡で観察する。3度目に召喚された勇者の《封縛》は健在で、今日も何も起こらなかったと確認し安堵していた。
「失礼します……ディスカ地区で火災が発生しました! 被害は甚大--」
「失礼します! 火災は鎮火--負傷者も治療を受けています。只、住居を失った者が多いです」
「失礼します。ドゥーエより建築技師と食料などの物資が到着しました!!」
次々に入ってくる部下達の報告に、エクセリは大きな溜息を付く。聖都ドゥーエの属邦となって10年、今まで大過なく良好な関係を築いてきた。
それが、最近は揺らいでいる。原因は誰もが分かっているが、取り除くのは不可能だった。
今まで召喚された勇者は常に1人、エクセリ自身は今回の勇者召喚が初めての出来事。資料や伝聞でも横暴ぶりや傍若無人さが取り上げられていたが、1人故に対処自体に苦労はなかったらしい……。
「又、勇者か……若造か?双子の方か?」
「……片割れです。火災を起こしたのは少女でしたが、とても綺麗な石を貰ったそうです」
「少女は……」
「彼の方が助けたそうで、それで事情が分かったのです」
その話を聞き椅子に深々と腰を下ろした。
「よくお出でたものだ……」
「治療院をよく利用されておりますから、行き会わせたとか」
「そうか」
エクセリは外套を手に取ると部下と共に執務室を後にした・・・。
†††††
「又、あいつが邪魔をした……」
吹雪は吐き捨てる。たまたま見かけた少女に、棄てようと思っていた魔雫を渡した。
魔法の練習中に偶然出来た魔力の結晶だが、彼にとってはがらくた。どう使うのかと思っていたら、火事が発生し大騒ぎになっていた。
ここぞと事態を収拾すれば、勇者として彼の名声は挙がる。しかし、事態を収束させたのは役立たず……攻撃魔法を持たない勇者だった。
相手を殲滅してしまえば必要はない防御。効果があると感じない《祝福》を掛け続けているのも、吹雪には屈辱だった。
指導役の魔技に指摘されなければ、魔法が掛けられていることに気付かなかったのだから、屈辱以外の何物でもなかった。
「あいつだろ?いい手があるぞ」
双子の感覚故か、不機嫌な吹雪に一颯が持ってきたのは、至人に無力感を味合わせようと思いついた提案。
「手は打ってあるんだ」
「あいつがいなかったら、無駄だろ?」
「いてもいなくても一緒さ--凡人なんて必要ないんだから」
悪巧みに盛り上がる2人の勇者を冷ややかに眺め話を聞き終えると、“それ”はゆっくりと移動しアドエアを、ドゥーエを離れる。
『--困ったものだ』
音のない呟きと共に、“それ”--使い魔は主人である魔王の元に急ぐ。同じように他の魔王の使い魔や使徒も急いでいた。
“魔境”浄化は勇者にしかなしえない。迷宮の管理者である魔王は見守るだけしか出来なかった。
だから、勇者の動向と“魔境”の状態を把握しなければいけなかったのだが、今回の勇者はろくでもない思考の持ち主だったと、使い魔は魔王の元に急いで向かった・・・。




