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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第三章
32/141

「何だろう……惨いね」

 全身に火傷を負い、辛うじて息をしている患者を見て小さく呟く。手を翳し《治》を掛けると、見る間に傷が癒えていった。

 むずがるように声を上げる少女に母親らしい女性は泣き、周囲から歓喜の声が上がる。それを無視して次の患者に対応するのは、前髪が顔の半ばまでを覆う鬱陶しい外見の……勇者として召喚された青年だった。

 治療を一通り終えた彼に、薬師見習いの少年が迎えが来たことを知らせる。治療院を出ると、彼の教師役を務める聖職者が待っていた。

「浮かない顔ですね?」

「明後日、対面することになりました。お伝えしたとおり、他の勇者3人と協力していただかねばなりません」

 沈鬱な表情に問い掛けなるほど、と頷く。遠慮してはいるものの、彼以外の勇者達の風聞は幾らでも耳に入った。

「僕なら、心配いらないよ……?出来ることをするだけだから」

 微かに笑みを含んだ口元と穏やかすぎる物腰に、アドエアの上位聖職者スリーエーは気を揉んでいた。

 今回召喚された勇者は4人。その中で彼だけが戦う術--攻撃魔法を持っていない。光属性に特化した上に、“治癒師”という希有な特性を勇者として持っていた。

 どの勇者とも重ならないユニークな彼が扱える魔法は限定され、手解きするにも難しく、特化ではないが光属性が主体のスリーエーに白羽の矢が当たった。

「ですが……」

「なるようになるよ?今日は、《祝福》と《加護》の関係を詳しく知りたい--」

 無関心なのかと疑うほどの佇まいを持つ青年--救世至人に、スリーエーは了承の一礼をした・・・。

†††††

「へぇ~戦えないんだ……」

 勇者達の対面は無事に行われた。

 これから4人でパーティーを組み、レベル上げと連携を取っていくことになる。先だって、それぞれに見合った装備が支給されたのは、その日の午後。

 “破妖の剣”を佩刀し黄金のドラゴンアーマーと深紅のマントを身に纏う將人。“黒耀の杖”を手にし金朱の刺繍が施された闇黒のローブを纏う吹雪。同じく“黒耀の杖”を手にし翡翠の刺繍が施された闇黒のローブを纏う一颯。勇者の紋章を刻んだ純白の長手袋に、精緻な銀刺繍が施された純白のローブを纏う至人--4人が一堂に会した光景は、巫女王アリセプテを含め誰もが召喚の成功を実感させるに充分だった。


「鬱陶しいね……あんなのが勇者?」

「あのおじさんは以外にチョロいよ。自惚れが凄いし、僕等は子供だもの」

 吹雪と一颯は王宮内の与えられた部屋で、昼間の対面式のことを話していた。

 誰もが彼等4人を讃え、賛辞を惜しまない。子供らしく神妙な振る舞いをしながら、人となりを観察し有利な展開へ持って行くのが、2人が得意とする所だったが……。

                        ◆

「ガキ共のお守りかよ……あの鬱陶しいのに任せるか。しかし、戦えない--いや、役立たずな勇者ってのは、笑えるな」

 昼間の対面式で会った双子の少年が、大人顔負けの存在だと気付いたのは、彼だけらしい。凡人には通用しても俺にはお見通しだ。と、自賛する將人だったが……。

                        ◆

「とりあえず……上手くいったみたい、だ」

 人と接するのが苦手で警戒していたが、すんなりといった対面式に安堵する。3人とも自信に満ち勇者らしく見えた。

 しかし、無茶をして命を落としては元も子もない。それに、彼等のようなタイプは手助けを嫌うので、《祝福》を掛けたことを気付かれなかった事にホッとした至人だった・・・。


 

 

  



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