番人の村
連続投稿3話目
サウファ・アーレム――――神の概念がなく“理”が支配するこの世界には、複数の迷宮がある。管理者は魔王と呼ばれる存在であり、その特性から1つとして同じものはなかった。
この世界において人々の生活の中心は迷宮と魔王。
冒険者達は迷宮探索によって日々の糧と一攫千金、名声を手に入れることが出来たのだ。
そのため、村や街は迷宮周辺に築かれ、冒険者達が集う。繁栄が続けば、何れは国と呼ばれる存在になる。
番人の村は、人々が集い築く最初の拠点であったが、その名に特別な意味は無い。単なる記号としてしか意味を持たなかった。
その村が築かれたのは冬季12月のこと。
迷宮出現から3か月余りしか過ぎていないこの村が、他の村や街とは一線を画しているのは、迷宮探索を糧とする冒険者達だけではなく、親子連れやカップルなど一般の者が楽しげに行き交うからだった。
--世界暦2024年、春季3月。
柔らかな日射しと温む春の風に誰もが寛ぐある日の午後、宿泊所の主人は入ってきた冒険者一行に目を見張った。
身に纏うのは覇気だろうか? 素人目にも、並々ならぬ実力があるのがはっきりと分かる。入ってきた瞬間、誰もが動きを止め静寂に満ちた。
生唾を何度も飲み凝視する主人の元に、一行は真っ直ぐに近付いてきた。
「暫く拠点にしたい」
「4人ですね……2階の突き当たり――続部屋へどうぞ 食事は1階で、前払いでお願いします」
緊張しつつ応対すると、カウンターに革袋が無造作に置かれた。
「足りなければ言ってくれ それから4人ではなく、5人だ」
2階へ姿を消す一行に安堵し、革袋を掴んだが余りもの重さに持ち上げられない。その弾みで革袋から溢れた大量の金貨に肝を潰し腰を抜かす主人――は、視線を感じて顔を上げた。
「!?」
カウンターの中の主人を面白そうに覗き込むのは、白い魔技。その口角が上がったのを目にして、主人は畏怖の眼差しを向けたまま凍り付いた・・・。
†††††
「――遅かったねぇ?」
指定された部屋に入ると窓の所に人影があった。
“雷光”ヴァルク・マヴェール――神出鬼没にして腕の良さに定評のある、1度として捕まったことない名うての盗賊は、ひょろりとした優男で一行の仲間。新しい迷宮の情報収集のために先行させたのだ。
「どんな様子だった?」
声を掛けたのは悪辣にして皮肉屋、赤銅色の短髪が特徴の“浸食”ジンシィ・ルゥ――赤魔技。
「噂以上に奇妙だよ 普通に親子連れやカップルが行き交ってる……怪しい奴もいるが、迷宮って感じじゃないな」
「――ふむ」
「冒険者はいたの?」
ジンシィの義姉で女嫌い、男装の麗人“陽炎”ハラーラ・ダヴァーヴ――白魔技が言葉を次いだ。
「初心者っぽいのから中堅どころはチラホラ――いつの間にか消えてるから、入口は分からなかった」
「消えた……?」
問い掛けたのは魔技の異端とされる咒音使――“旋律”ティネ・ギネ。
「瞬きした時には消えてるんだ 場所もバラバラ……一般者に至っては、気付きもしないんだぜ?」
「つまり、迷宮が冒険者を選別しているってことか……」
冷静沈着な一行のリーダー“勝者”ヴィクトール・セライ--魔法騎士の呟きに、5人は沈黙した。
冒険者にとって情報収集は必要不可欠で、成功率を上げるためには疎かには出来ない。実力があっても情報が欠ければ、生還率も上がらないのだ。
それに、伝聞や噂は誇張や悪意に満ちていたりもする。まして、攻略対象の迷宮は、出現してから月日が短く、分からないことも多い。だから、ヴァルクに先行させた。
そして、得た情報は今までの経験……攻略してきた迷宮や依頼とは異なる、厄介極まりないという事実だった。
「情報が足りないね?」
「先ずは主人だな……腹も空いたし、たっぷりと金を弾んでる 一番情報を持ってるよ」
ティネの呟きにジンシィの科白が被る。が、異論は出ない。5人は腹ごしらえと情報収集のために、1階へ降りる事にした・・・。