魔王の晩餐Ⅱ
コタツにミカンはいけません……風邪引きの元です。
「………」
誰も何も言わない。言う気力さえ起こらず、億劫な様子で籠のミカンに手を伸ばす。
「コタツにミカンは王道だよな……」
魔王リコフォス・キニゴスがぼそりと呟く。
「……抜けたくないのう」
答えたのは魔王ヘレシャー・グァナン。真冬の定番であるコタツ……その誘惑は、魔王と言えど抗えない。黒尽くめの男四人が仲良く身を寄せ合って籠もっているのは、端から見ればシュールに違いなかった。
スェタナ・イェスチは魔王の意向により、内装やシチュエーションが幾らでも変えられる。コタツになったのは魔王タム・ピラゥトがミカンを手土産に持ってきたからだった。
「余り長居してると、不在だと思われるぞ……筋取るのか!」
タム・ピラゥトが声を上げると、リコフォス・キニゴスがミカンの白い筋を神経質なまでに取っていた。
「まだ、そんなに経ってないだろ? 苦いから嫌いなんだ」
「誤差があるから……あぁ、眠くなってきた」
魔王クルム・メレフが欠伸をしうとうとし始める。釣られるように全員に睡魔が襲ってきて……爆睡モードに突入した。
リリ…リリ…リリリ――微かなベルの音がリコフォス・キニゴスの神経を逆撫でする。心地よい微睡みを妨げられ、眠気が飛んだ彼は、封書が置かれているのに気付いた。
「おい、起きろ! お知らせ(メール)が来た」
揺すり起こされ、コタツのの魔力でだらけてしまっていた彼等は封書――お知らせに眠気が吹っ飛んだ。
1時間が約5分に相当するスェタナ・イェスチは、避難場所でもあり魔王以外は入れない。しかし、長居するほど時間差は大きい……かつて、それが原因で世界が歪みかけた経緯があった。
そのため、お知らせは魔王を呼び戻す効果がある。通常は名指しだが、何も書かれておらず誰に向けたものか分からなかった。
「開けるぞ」
暫し眺め、意を決して触れると封書は弾けるように解けた。
――余日5日 “英雄”戴冠 宴開催――
プロジェクターよろしく、空中に映し出された文面に顔を見合わせる4人の魔王。今回集まった理由の1つは、“英雄”と呼ばれる“栄光の御手”の所在が分からなくなったことにあった。
彼等が知っているのは……“英雄”の戴冠式が間近に迫っていたが、最後の迷宮探索に赴く為に延期になったこと。目指した場所はアルヴァロ・マーロの迷宮であり、そこに向かう手前で消息が途絶えたことの2つだった。
後者に関しては、恐らく魔王ラフマ・キナウが迷宮へ送ったのだろうが、生還したという話はついぞなかったし、当初の春季3月が4月に代わった事実も迷宮攻略を考えれば頷けることだった。
しかし、生還したという報告が使い魔や秘書を含めてなかったため、探索中か全滅の可能性が高いと踏んでいた。
どちらにせよ、動向如何では冒険者達が迷宮攻略に消極的になる可能性もあり、対策を立てるために今回集ったという経緯があった。
「生還したんだな」
「なんで、一年の最後なんだ?まだ3月内だ」
「……」
考えても答えは出ない、確かなのはお知らせが来たという事実のみ……。
「……来た以上戻るか」
「確認してからかの?」
「通知するよ、今回はお開き」
「じゃぁ、戻る」
お互いに挨拶を交わしスェタナ・イェスチは無人になる。それを合図に冬の定番――コタツとミカンの内装は、溶けるように消えぼんやりと光る乳白色の空間だけが残された・・・。
とりあえず息抜き




