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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第二章
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烙印の聖女

題名変更

「ライード……」

「離れるな。何としても脱出するぞ」

 ライードの残された左眼を閉ざし鏡の間を抜ける。鏡像の変化にも注意しつつテロー達4人は進み、巨大な鏡が行く手を塞ぐ行き止まりに出た。

 左右も鏡であり元来た道を戻るしか選択肢はない。用心深く鏡を調べ戻ろうと背を向ける一行――殿のヴァタラの手が期せずして鏡に触れた。

 次瞬、身体が強い力で背後に引かれ気が付いたときにはテロー達の姿が小さくなって……杖の転がる音に振り向くと、鏡が小さく光りヴァタラの姿がない。テロー達3人を写すのみだった。

『いいざまだね、どうだい――?』

『気分良いに決まってるさ……』

『“英雄”様だからなぁ――』

 口々に囃し立て嫌らしい笑い声を響かせる鏡像の3人。鏡を破壊してもこの場所にいる限り、鏡像には勝てない……無力感に襲われ手にするライトメイスを床に置き、脱力したようにその場に座り込むタシャ――女傭兵。釣られるようにテロー達も座り、様子を伺えば呆れたように佇む鏡像。そこに、3人は勝機を見出した。

 鏡像には違いないが、必ずしも彼等そのものではないのが明確になったのだ。

『諦めるの早いねぇ』

『つまんないわ?大したことないのね』

『当然だ――仮の“英雄”様だからなぁ』

『お終いにしようぜ。飽きた』

『賛成!何にする?』

『そうだな……』

 楽しげな様子を伺いつつタイミングを計り、それぞれが自分以外の鏡像を本体の鏡めがけて攻撃した。

「往生際は悪いんだ!《覇王剣(メラキム)》!!」

「ヴァタラは返してもらうよ《雷霆鎚(ヴァルダ)》!」

「我は招く……《魔霊王(マリード)》!!」

 驚愕の表情を貼り付けたまま鏡像は、バラバラになった。

 曇り濁った破片は何も写さず床に撒き散らされ、鏡面を失い枠だけを残したそこには、光が届かぬ闇が渦巻き……闇色の手が無数に伸びて彼等3人を捕らえた。

「ヴァタラを見つけないと」

「覚悟はいいか?」

「何を今更……行くよ!」

 引き込まれるのに任せ闇に落ちる“栄光の御手”。静寂の中3つの人影が呆れたように会話を紡いだ。

『行っちまった……』

『戻れないよ、もうねぇ?』

『いいじゃないか、彼等が望んだんだ。そうだろう?ライード』

 破壊されバラバラになったはずの鏡は傷1つ無い。その上、オリジナルがいないにも関わらず鏡像は元の状態で存在し、鏡像のテローが呼び掛けた先に佇むのは、損傷が著しい辛うじて人型を保つライード・エリキュース本人。

『餞別だよ、ご武運を』

 傷1つ無い鏡像のライードは茶目っ気のあるウインクし、右眼を指差す。無惨な状態でゆらゆらと佇むライードの、ぽっかりと空いた右眼の孔には血色の鉱石――に見える、“魔力喰い”と呼ばれる甲虫が嵌まっていた。 覚束ない足取りでライードは鏡の間を抜けて何処かへ去って行く。それを見送って鏡像の“栄光の御手”も闇に溶け込むように消えた・・・。 

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