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「……どうだい?」
「消えたわ。あれは……」
《光小精》に照らされた室内は調度品も何もなく、窓を背に佇む……良く出来た等身大の人形があるだけだった。
一行が中に入ると扉が閉まり、振り向く間もなく足下が消える。重力に逆らえず落ちる彼等が放り出された先は食堂……カタカタと音を立ててテーブルが振動し、ナイフやフォーク、皿や包丁がタレー達に襲いかかった。
「盾よ…《光虹》!」
虹色の光膜がポルターガイストを払い、料理道具や食器は只の道具に戻る。恨めしげな死者の声がタレー達3人の周囲を巡り、バンシーへと姿を変えた。
「リ、リリアは!」
1人だけ2階に残ってしまった事実にタレーは唇を噛み締める。バンシーは死の先触れ……襲い掛かるそれに追われるようにして、食堂を出る。リリアは気になるが、安全の確保が優先された。
ホールは埃と塵が積もって落ちた階段の残骸が散らばり、その中に佇む彫像はタレー達を睥睨し嘲笑の笑みを浮かべていた。
――――訪う者よ。我が道は、何処か……――――。
ヒョウオォォォ……。ヒュウゥァァァァ……死者の声が縋るように纏わり付き、彫像の笑みが深くなった。
――――我は何者か?応えよ!!――――ゴウォッ!彫像の声なき問いに、闇よりも濃く暗い影が立ち上がった。
「エスト!」
鋭利な大鎌を手にした死使は、《光虹》をたやすく切り裂き、エストは返された魔法により頽れる。ローブには血が滲み、顔色も蒼白に近くなった。
ヴァルクのサーペンタインが火を噴き死使を穿つが、ボッと影が弾けるだけで効果はない。タレーは咄嗟に、魔道具による結界を発動させ、振るわれる大鎌は弾かれた。
その間にポーションでエストを回復させ、ヴァルクは弾倉を闇属性全般に有効なシルバー・ブリットに交換した。
「狙うのあの像だ。援護を頼む!」
タレーはレザーシールドで身を守りつつ、バトルアックスを手に彫像へ向かう。シルバー・ブリットが大鎌を破壊し、たじろいだように揺らぐ死使。
「よし! ぇ……?」
首を傾げるヴァルク。前のめりに倒れた彼の、衣服の下から脂肪を断ち切られた筋肉が覗く。止めどなく血が溢れ止まることはない……知らぬ内に、背中を大きく切り裂かれていたという事実だけが、そこにあった。
「!?」
「避けて! 破裂せよ――《光球》!!」
エストの杖が光り球形を成すと膨れ上がり、閉じた瞼の奥にさえ光を感じさせて……廃館を内側から飲み込んで四散し、静寂に満ちた。
「くそ…っ!」
死使は消失し彫像は佇むのみ。床にはエストとヴァルクの屍体があり、タレーだけが生きている。リリアはまだ2階なのか?階段が落ちたため、2階に上がるのは容易ではなかったが……リリアまで失うわけにはいかない。決意を新たにするタレーだった・・・。




