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ヒョオオオォォゥ……。フォウオオォォォ……。錆び付いた門は、ギシギシと音を立ててゆっくりと開いた。
足を踏み入れると、風とは異なる空気の流れが渦巻く。耳元を行き過ぎるそれは、気の弱い者なら逃げ出すだろう死者の声に違いなかった。
「――光あれ!」
エスト――白魔技の呪句に《光小精》が現れその光が廃園を包んだ。
『ひぃ――!』
『止めろぉ……!!』
『きゃあぁぁぁ……』
苦痛を叫ぶ死者の声が彼等を離れ、追いやられるように廃館に吸い込まれていく。ゴトン!音を立てて石の墓標は倒れ、ガラガラと崩れていった。
『おぉ……見つけた、ぞ!!』
重々しい声なき“声”がすると、彼等の周囲の空気が渦を巻く。いつでも攻撃できるように態勢を整えたタレー達の前に姿を現したのは、長い髭を蓄えた老人――血塗れのローブを纏った魔技のなれの果てだった。
『――者よ。立ち去れ……眠りを妨げてはならぬ、応えてはならぬ……立ち去れ!』
「払え!」
《光小精》は一行の盾となり魔技に飲み込まれたが、魔技が風船のように膨れ上がり四散する。死者の声――死者や亡霊の集合体は、魔人や魔獣と違って闇属性に近いだけの存在。元が魔技であろうと、光属性は弱点でしかなかった。
「迷宮の前にお化け屋敷か……難儀じゃの?」
「頼りにしている」
タレーの一言にエストが破顔し呪句を唱えた。
「《光流》!」
小さな光の粒子が一行を包む。闇属性に対する結界を張り、死者の声が吸い込まれた廃館に向かう“鷲獅子の鈎爪”だった・・・。




