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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第五章
141/141

久々の投稿になります……改めて宜しく願います

 風が止み生き物の気配が途絶えた静寂に満ちた砂の大洋を、灼熱の太陽が容赦なく焼いていく。点在するオアシスは瑞々しい緑を僅かに濁らせ、泉はその水量を少しずつ減らして--目に見える変化は微々たるもの。しかし、確実に影響は大きくなっていた。

 異変に、最初に気付いたのは隊商氏族の一団。都や街や村、個人や団体に情報と物資を運び、売買することで生活の糧を得る彼等にとっても、ガドル・パーディアの異変--迷宮フスーフィリ・カルクルのクルヴァーティオ化は死活問題だった。

「以前なら2日もあれば着いたんだがな……」

「……水は更に貴重だ どうなるのだろう?」

 顔を曇らせる商人達に不安は尽きない。娘--奴隷として身売りされた少女は何気なく目線をずらし、小首を傾げた。

「あれは--何?」

 指差す先、視界に入ったのはキラキラと光を弾きながら舞う純白の蝶。どこから現れたのか1頭、又1頭と数を増やし群れをなして砂漠の中央へ、中心へと集まって天に昇るかのような光の柱となった。

 幻想的とも言えるそれは波打つように畝って虹色の光を放ち--圧倒的な質量と熱を持った光芒となってガドル・パーディアを呑み込む。どれくらいしたのかサラサラと澄んだ音が耳を掠め、頬を空気の揺らぎが撫でた。

「--あ、れ?」

「「「!!!」」」

 その信じがたい光景は5対の眼を驚愕に見開かせ、誰のものなのか喉を詰めるような呻きが半開きの口から漏れる--彼等は、唯々見つめていた。

 外套(ハザ)をはためかせ、頬を撫でるように風が触れる。サラサラと乾いた音を立てながら砂の大洋はその形容に相応しい風紋を描き、キラキラと光を弾きながら砂丘がそこかしこで崩れていく--本来の在るべき姿、見慣れていた景色が眼前に拡がっていた。

                         ◆

 中級1(ジョン・ディーイー)の魔王サラマゥート・リューク--“祈死の導娘”。

 ガドル・パーディアのほぼ中央。廃墟群(アトラール)と2つのオアシスを封土とし中心に聳え立つ白亜の迷宮クーグフィル・ファルファーラ--“哭鳴の白蝶宮”。

“世界”による脅迫紛いの依頼に断ることもできず、魔王になることを引き受けた篠頭美織はガックリと項垂れた。彼女の精神を削るだけの威力がその呼称にはあったのだ。

「引き受けなきゃ良かった……?」

『--随分と気弱なこと 相応しき御名ではありませんか?』

 カサカサと乾いた抑揚のない平板な、音無き“声”が耳朶を掠めた。顔を上げて視界に入った“それ”に、更に精神を削られる……。

 不自然に上体を傾げて見つめているのは魔王補佐。紅玉の右眼と碧玉の左眼、彼女の頭半分高い背丈と2倍近い横幅、ピョコンと跳びだしたような丸い耳を持つデフォルメされた頭部、関節のない短い上下肢--背中にファスナーがなだけの、クマの着ぐるみ(そうとしか見えない)オフェール・ラスール--“恩寵の使徒”と言う大層な名を得た、人ではない存在だった。

                              

 


                       





m(_ _)m

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