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表現、描写が悩み所です……(^^;)
『こうでなくっちゃっ! 凄い--凄いわぁっ!!』
キャラキャラと笑いながら鋭利な爪を振るう人でない存在と、クリスダガーとシャムシールを繰り出すティーダの攻防は一進一退の様相を呈していた。魔人を筆頭に人外の存在は災厄に等しい脅威であり、優れた武人軍人であろうと一方的に蹂躙される。
だがそれは、ガドル・パーディアにおいて……砂漠の民にとっては一概に言えなかった。過酷な砂漠を生活圏とする彼等は、概して心身に優れ素養を持つ者も少なくなく……上級冒険者にも匹敵する砂漠の民もいる。
「--はぁっ!!」
気合い一閃--手数を重ねる内に見つけた僅かな差異を利用したティーダの剣撃に、人でない存在は大きく後方に飛び息を飲んだ。鋼に準じる硬度を持つ爪が両手から3本も欠け--驚愕と怒りに青冷めぶるぶると震える。
『な…んてこと……あたしの、あ…綺麗な爪がぁ--Guru、Gugaaxaxaxa!!』
絶叫は咆吼となりそれを合図に姿が変わっていった。金糸髪は灰色のささくれたように鋭い針のようになって綺麗な貌は犬に似た獣面に変貌、しなやかな肢体は毛むくじゃらの四肢を持つティーダの2倍はあろうかという巨躯になる--魔獣とも魔人とも付かぬ存在が憎々しげに睨み付けていた。
伏せるようにして躱した唸る豪腕が、砂を巻き上げ視界を遮り激痛に絶叫したのはハイディベステだった。風圧で折れたシャムシールがティーダの狙い違わず、左眼を奪ったのだ。
『--Gyaxa!?』
素養を持たぬティーダは、持たぬがゆえの研鑽と努力によって砂漠の民有数の実力者となり、一目置かれる存在。生半可な魔獣や獣は彼の敵ではない、本性が明確でなくとも油断さえしなければそう簡単に後れを取ることなどないのだ。
『お・のれぇ……八つ裂きにしてやるぅぅ!!!』
「!?」
左眼から血を滴らせるハイディベステは仁王立ちになると咆吼した。それを合図に光の粒がどこからか撒き散らされ更なる変貌を--灰色の鋭い針のような髪は磨き上げられた薄刃の剣の群れに変じ、豪腕を覆う体毛も切っ先の鋭い刃と化した。
尋常でない巨躯を誇る剣針鼠。そうとしか形容できない魔獣が、砂と屍体を巻き上げ縦横無尽に迫ってくる。シャラシャラと澄んだ音を立てて、触れるものを切り裂く剣毛が大気を縦横に走った。
気が付けば躱すのが精一杯で反撃は困難だった。掠めただけとは言え、全身に負った小さな裂傷がむずがゆいような痛みをティーダに与え、背後にはヴァスリーサ・マクルの由来でもある“泉”。その縁にまで追い詰められていた・・・。
†††††
“砂妃の泉”はガドル・パーディア最大のオアシスにあり、その清らかな水は涸れることなく湧き出る砂漠の民の聖域だった。
その殆どを遺失し僅かに残る古の口伝は、かつて在った迷宮の一部らしいと伝える。どのような迷宮だったのか、何と言う名称だったのかは遙か時の彼方、誰1人知る者はないらしい。
確かなのはサウファ・アーレムにおいて最古の、“魔王”と呼ばれる存在が確認された“最初の迷宮”。魔王は召喚された“勇者”ではなくディパーラ・ヴァシィリス--“聖王妃”と呼ばれる孤高の存在という事実であり、砂漠の民は血統に連なる者の末裔という事実だった。
『Guru……後がないようだ、今度こそ切り刻んでやろう--』
「!!」
Syarasyara、jyararararaxtu! 剣毛が波打ち甲高い金属音が大気を震わせた。蹲るように丸めたサイフファールは、限界まで撓められた発条が弾けるように跳ねて襲い掛かる。避けようがないティーダは、顔の前で両手を交差し防御の姿勢と共に死を覚悟したが……?
サイフファールは手を伸ばせば届く位置で動きを--不可視の壁でもあるのか、彼に近付くことが出来ないように見えた。
「--結界か?」
--その通りです--。
不可視の壁を引っ掻き体当たりを繰り返し、歯噛みと唸りを上げるサイフファール。ティーダが小さい呟きに、脳裏に直接響く音のない声が応えた。ザザァ--泉の水が陽の光を弾いて煌めき、それは1人の女性の姿形を造り上げる。
--妾はディパーラ・ヴァシィリスの命に従う者、精霊なれば命じよ! 契約せよ! 連なる者よ--。
もうちょっと続きます