表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第四章
135/141

(_ _)

「これは“覇王(メレファ)(ローム)”と呼ばれる魔工芸品(アーティファクト)……正しく扱える人間(モノ)でなければ、その名に相応しく囚われて身を滅ぼすのだ」

「……」


 砂漠の民“猛き角蛇”は5つの部族の生き残りによって構成されているが、聖域奪還と青王都(ディアルト)滅亡を共通目標とする寄り合い所帯だった。

 部族長ヴェロナ・フィディの一族を最大派閥とし、早々に臣従を図った2つの部族と誇りを拠にする保守的な1部族が牽制しつつ、表面的には平静を装っていた。

 その中にあって孤高の--砂漠の民最高齢、生き字引と言われる長老の天幕は、オアシスの外れにポツンとあった。

(長老とは名ばかりの役立たずの爺じゃ……)それが口癖で滅多に天幕から出ることのない、部族の誰もが気にも留めない存在を、(アクト)は尊敬に近い念いを抱いていた。

 切っ掛けは食事を運んだこと--以来ガドル・パーディアに関する事象・歴史・知識をアクトは学ぶことになり、今も継続中だった。が……。

「もう教えることはないのう……そうじゃ、これをやろう」

 そうして渡された鍔のない装飾刀は、長老の部族“黄金の獅子”が至宝とするアーティファクトであり形見だった・・・。

†††††

 Uoxoxoxoxo……!戦くように悲鳴とも叫びともつかぬ音のない声が、廃墟群(アトラール)の間を吹き抜けていく。鞘から放たれたメレファ・ローム--アーティファクトは、陽光を弾いて閃光を撒き散らし、死者達の執着や妄執を浄化ではなく消滅させた。

 風はピタリと止み静寂に満ちた空気に彼の息遣いが溶ける。何とか切り抜けた……そう安堵するアクト・クラトルだった。が……。

『--礼を言わねばならぬ』

 人ではない音のない声と共に現れた人影にアクトは息を飲んだ。

 目の前に佇むのは、英傑と名高いかつての族王アファ・サム--肖像画から抜け出たとしか思えない砂漠の民だった。

『我が部族の至宝--後継たる若者よ、名は何と言う?』

 今は亡き長老との対話を思い出すが、族王アファ・サムが同じ部族だと聞いたことはなかった。

(とうにわし以外は残っとらんし、滅んでしもうた……必要はないぞ)飄々と笑い語ろうとはしなかったし、

“猛き角蛇”の誰も知らなかった。

 最も、目の前の砂漠の民が本物の筈はない。廃墟群は魔人が主として存在し、冒険者含め人間は玩具のような存在だと囁かれているのだから。

『我は古の幻影--若者よ、今1度問う。名は何と言う?』

「……身内の者はアクト・クラトルと呼ぶ、正確にはアフト・クラトルだ」

 初めて名を問われたとき、幼かったゆえか舌っ足らずな発音に聞き間違えられた。

 ハッキリと物事が分かるようになったときには定着しており、彼にとっての名、は他者と区別する以外に用途を見いだせなかったのでそのままにしてきたのだ。

 暫し逡巡したが、覚悟を決めて名乗ると砂漠の(アファ・サム)は驚いて見せた。

『アフト・クラトルよ、我を倒せ。後継たる証を見せるがいい!!』

 すらりとシャムシールを抜き族王アファ・サムの幻影は、アクトに襲い掛かったのだ・・・。


 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ