覇王覚醒
題名変更
「まるでヒーローね?」
随分と昔に読んだ物語に出てくる主人公のようだ。と、と小首を傾げて最高位の魔王シャハルークス・エリラーは呟いた。
ガドル・パーディアのどこからでも見ることができる廃墟群は、迷宮フスーフィリ・カルクルを内包している。管理する魔人シャリ・アハは迷宮のクルヴァーティオ化により不在で、現在の廃墟群は完全に無人の状態となっていた。
想定外の、クルヴァーティオ浄化のために召喚されたのは異世界の少女。1度目は彼女の独断で中断させ、満を持して2度目の浄化に赴いているところだった。
クルヴァーティオは勇者以外を受け入れない、必然的に同行者は取り残され……残っているのは1人の青年だけ。
身に纏う装束を見ると砂漠の民らしい。素養持ちの人間が珍しくないとはいえ、人の身で人外の襲撃者を撃退する様は純粋に感心させる。2振りのシャムシールを得物に蟷螂と幼虫を潰し、マレフィキムーソをも殲滅した。
そして今、対峙しているのはマウト・セヴェリオとマウト・オンヴーロ。ガドル・パーディアで命を落とした冒険者や砂漠の民のなれの果て--どう攻略するのだろうと、最高位の魔王は興味津々で見つめていた・・・。
†††††
「どうするか……」
アクトは2つめになる魔道具の結界を張り思案する。彼を結界越しに取り囲み睨むのは、魂の安らぎを持たぬ亡霊とスケルトンだった。
効果があるのは光属性の攻撃だが……魔技でも聖職者でもない彼は素養持ちとはいえ、どの属性の魔法の知識も、使う技術を持ち得ないのだ。
バチバチと閃光が走る度に結界の幕は切り裂かれ、その端から何事もなかったかのように修復されていく。切り裂かれた隙間から侵入しようとする亡霊は、その度に弾き飛ばされていった。
魔法と違い魔道具の結界は物理的な攻撃に弱い。その代わりに壊れない限り発動し続けるという特性をもっており……。
徐に、ボロボロの鏃の付いた矢を切り伏せる。マウト・セヴェリオの中に射手がいたらしい--3本、2本、4本と放たれる矢は容易く結界をすり抜け、剣や斧が幕のように張られた結界を切り裂いた。
ザクッ!空を切る音を避けた瞬間、鍔なしの小刀が足下に落ちた。
精緻な象眼装飾が施された装飾刀は、彼を最初に拾った砂漠の民“猛き角蛇”の長老から貰った代物であり--。
(--行けるか)シャムシールを手放し呼吸を整えて、装飾刀を鞘からゆっくりと引き抜いた・・・。