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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第四章
133/141

難しい……

「……」

 砂塵を巻き上げて幼虫は崩れ落ち、動かなくなったが粘度のある体液でシャムシールはその鋭さを失った。

 一息つき魔道具の結界を張った途端、静電気が走るように雷光が煌めく。結界が反応したのと耳障りな羽音が渦巻いたのはほぼ同時だった。

 真っ二つに切断された幼虫は乾いた音を立てて塵と化し、這うように吹き抜ける風が運ぶ砂と共に巻き上がると--魔妖蝿(マレフィキムーソ)と呼ばれる魔獣に変じた。

 一体ではなく小麦ほどの体長を持つ妖蝿(ムス)の集合体。それは、植物を除く生き物に集って蛆の巣にし、生きながらに腐り果てさせる腐敗と死の象徴と恐れられる--厄介な存在だった。

 魔法と違い魔道具は壊れない限り効果を発揮し、魔法ではないので結界内からでも攻撃はできる。しかし、いつまでも結界の中に留まることは出来なかった。

「勇者殿を迎えねばならぬ……」

 アクトは口元を覆い灯火に使う樹油を周囲に撒く。火口を切ったのは火属性が弱点だからだ。

  魔道具を踏み壊し結界が消滅--一斉に襲うマレフィキムーソは一気に燃え上がる炎に焼かれ、藻掻くように離れ千々に散らばった。が……追い払っただけなので、再び集い渦巻いて猛禽の爪を持つ巨蝿を形作るに至った。

『Gugaaxaxa--!!』

 擦り合わされる羽音は咆吼となり、それを合図に魔獣はアクトに襲い掛かった・・・。

†††††

『……素養さえ扱えれば、魔法に拘る必要はない。僥倖に感謝するといい』

 身体中が燃えるように熱く目の前がグルグルと回った。

 酷い口渇とバクバクと鳴る鼓動に、何が起こったのかも分からず混乱し意識が遠のいていく。“死にたくない!”そう思った瞬間、落雷のような衝撃を受けて脳裏を過ぎったのは、音ではない“声”だった……。

                          ◆

(この感覚……)襲い掛かるマレフィキムーソを伏せながら躱し、起き上がり様にシャムシールを一閃する。無意識の内に素養を乗せた斬撃は、猛禽の爪を追い払うのではなく塵に帰す。手応えにアクトは躊躇わずシャムシールを振るい、程なくしてマレフィキムーソは弾けるように消滅した。

『…ぉぅ』

『あぁ--』

『けた……』

『助…け……』

 シャムシールを鞘に収め息を付いた。

 顔を上げると陽炎のように揺らぐ死者の(マウト・オンヴーロ)がぐるりと取り囲んでいる。射るような視線に乞い願うような光が絡み、アクトを見つめていた。

『……肉を』

『寒いの……肉、を』

『頂戴--欲しいのぉ!』

『『『『くれええぇぇぇっ!』』』』

 音のない幾つもの絶叫に応えるように、砂塵から滲むように立ち上がったのはマウト・セヴェリオ。一糸乱れぬ隊列を組むスケルトンとその間を埋める亡霊に、悼むための黙礼し素養が満ちる感覚を追った・・・。 

 

 


 

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