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「--まぁ、素敵ねぇ タイプよぉ♡」
目をハートにして……魔王イエウシュ・ゾナは、魔法の鏡を食い入るように眺め切なげに溜息を付いた。
「凡人には見えないわね?」
「確か……素養持ちだ、砂漠では珍しくないと聞いた事がある」
「そうなのぉ?じゃぁ、期待できそうね」
コロコロ……ゴロンゴロンと喉を鳴らすようにジョン・ディーアルは笑う。地を這うようなそれは、最も機嫌が良いときに発せられるのだが、知らない者は怖気に見舞われ悪夢に魘されるという代物だった。
魔王不在に伴うクルヴァーティオ浄化は、勇者でなければ成し遂げられず、勇者以外の者は例外なく排除される。その結果として、今回の勇者--少女の姿は消失し、廃墟群に同行した青年のみ残されていた・・・。
†††††
「……無事を願う」
小さく呟き、2振りのシャムシールをアクト・クラトルは抜いた。
ガドル・パーディアを暴虐に満ちた魔力が蹂躙して以降、風はピタリと止み砂漠に生き物は見当たらず、それは廃墟群も例外ではなかった。
再攻略に望む勇者も生き物の気配が全くないことを伝え、今いる場所に来るまでの間も一切感じられなかったのだ。
しかし、彼の五感は幾つもの気配が蠢くのを捕らえている。遠巻きにしながらも、ジリジリと数を増し近付いてくるのを……。
「ふっ!」
ブシュッ…!潰れるような音が耳を掠める。砂と塵を巻き上げて崩れ落ちたのは人間程の体躯を持つ蟷螂だった。
ザザァ!甲高い金属音が何度も反響し、上空から振り落ちる群れを成した蟷螂の幼体はバラバラになって山を突く……一息つく間もなく、残骸からもぞもぞと飛び出したのは巨大な昆虫の幼体だった。
ガチガチと牙を打ち鳴らし、節のある体躯がひくひくと波打って……。
◆
「きゃあっ!気持ち悪~い!?」
野太い濁声で魔王イエウシュ・ゾナは絶叫し、こめかみを押さえるジョン・ディーサは罵りたいのを堪える。鏡は長方形の試着室にあるような、大人3人が並んでも余裕のある姿見だが、ふくよかすぎる体躯が半分以上の面積を占拠しているのだ。
仕方なく、割り込むようにして鏡を覗くと……巧みな剣捌きで幼虫を翻弄しているのが見て取れた。
「素養持ちとはいえ良い腕だ。無駄がない」
「--イケメンよねぇ?出来る男性は違うわぁ♡」
しなだれるのをきちんと躱し、鏡の全面に立つ魔王アヴァレイソ・クイリスは……支えるものがなく地響きを立てて転がっていくジョン・ディーアルを視界の隅に収めつつ、青年の攻防に目を細めた・・・。