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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第四章
130/141

勇者邂逅Ⅱ

1話飛ばしたので、挿入しました……題名変更の予定あり

「……アクトさん!!」

 陽が沈みつつあるのか高層ビルの影が長く伸びる。歪に揺れるその影に追われるように勇者--美織は、同行する青年(アクト)と廃墟群の中央をとにかく目指していた。

 一時でも早く辿り着かなければ、魔人シャリ・アハの犠牲を無駄にする。美織が勇者としてクルヴァーティオ浄化に再び赴くのを、信じているはずなのだ。

 でなければ、不可侵の安全地帯--天空の迷宮サラーヴ・タヴットに送ったりはしない……突然の光に足を止めた瞬間、不意に重力が途切れた。

 掠めるように頬を撫でる大気に落下しているのを全身で体感し……危機感を抱くと、彼女に応えるように落下するスピードはゆるゆると遅くなった。

 フワリと羽でもあるかのように着地--ピシャンッ!足下で水音が跳ねた。

 顔を上げれば目鼻の先さえ見えない漆黒の、光のない闇の中にある。勇者(ミオ)の足下を中心に波紋が広がっていく。目を凝らすと踝の辺りまで黒赫の水ではない液体--血の海に浸かっていた。

「!!」

 波紋は広がるにつれて丈を伸ばし嵩を増して津波のようにうねりながら襲い来て--グレートソードに代わる新たな武器“万華の帯鞭”の一降りで、バシャバシャと水音を立てて崩れ落ちた。

--ぁ…あぁ……おぅ……--。

 息を付く間もなく人のものではない声が反響しながら近付いてくる。ピシャッ!パシャッ!複数の水音は迷うことなく彼女を目指していて、臨戦態勢を整えた。

--ぉ……ぁ、あぁぁ……グアァァァッ!?--。

 強烈な橙光が目と鼻の先さえ分からぬ闇を切り裂いた。

 燭光球(アドモール)--ありふれた灯り道具が発する光に照らされて、それは絶叫する。本来ならきらきらしい、勇者に相応しい筈の装備から覗く腕や頬は罅割れ剥がれ、シュウシュウと蒸気を上げていた。

 魔王シャハルークス・エリラーが示唆したような存在--かつての勇者を模した、勇者以上に勇者らしい人形に違いなかった。

「はっ!」

 くるりとその場で一回転し足下を狙った攻撃を躱す。信じられぬ位に軽い身の熟しに、美織は最高位の魔王(シャン・ディーイー)に何度も感謝した。

 彼の魔王の元での修行は、数日の間というのに彼女の身体能力を段違いに高めている。その上で身に付ける甲冑で全てが底上げされているのだ。

 僅かな波紋を残して足下を狙った攻撃を次から次へと躱していく美織だったが、引っ張られる感覚にその着地が乱れた。

 黒赫の--血色の腕が足首を捕らえ放そうとしない。蹈鞴を踏んだ弾みでアドモールは落ち、ぐにゅりと飲み込まれ最初のように闇に包まれてしまった……。


  


 

  

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