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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第三章
128/141

「!!」

 砂手に足を取られて、駱駝は躓きそのまま飲み込まれていく。振り落とされた2人の内、女は遠くから砂煙が近付いてくるのに気付いて息を飲んだ。

 砂手は駱駝一頭で満足したらしい。砂漠を吹き抜ける風もパタリと止み、砂煙は大きく近付いてくるのが見えた。

 冷たい月光の照らす先にオアシスがある。砂漠で足を失えばそれは致命的だし、辿り着く前に捕まるのは目に見えていた。

 オアシスに辿り着けたにしても、現状で逃げることは叶わない……遅いか早いかの違いだけだった。

「坊や……覚悟しなさい」

 呟いて護身用に身に付けていたダガーを抜いた。

 白刃は月光を千々に刻んで2人の周囲がキラキラと輝きに包まれる。驚いたのは女と奴隷商人だった。

 青王都ディアルトから逃亡した女と子供を連れ戻すために、駱駝を駆り夜の砂漠を渡る。膂力やスタミナを考えれば、追いつくのは時間の問題--奇しくも遙か前を行く駱駝が体勢を崩すのが見えた。

 そのまま駱駝は砂手に飲まれ、足を失った逃亡者を捕まえるのは容易いこと。その時までは信じて疑わなかったのだが……。

「ひ……っ!」

 女は腰を抜かしガチガチと歯を震わせる。砂の上とは言え、駱駝から振り落とされ気を失っていた筈の幼子は、しっかりと目を開けて彼女を見つめていた。

少女と見紛う作り物めいた白貌に表情はない。金色かがった琥珀の双瞳に宿るのは--。

「な、なんだ……う?」

「わあぁぁぁ……!?」

 魂切る悲鳴が凍てついた夜気に溶け、撒き散らされた血は砂の大洋が一滴も残さずに飲み干す。満足したような吐息が、どこからかしたのは錯覚か?

「だい、じょう…ぶ、だよ?」

 舌足らずなたどたどしい声音で、幼子は科白を紡ぐ。邪気のない笑顔に彼女は更なる恐怖を抱いた。

「ち、近付かないでおくれ……ひぃ!」

「あ、あぶな……い、よ?」

 伸ばされる手を払い離れようと身動ぎした瞬間、背後の砂が何の前触れもなく大きく立ち上がった。

 ザアザアと砂の雨が降り注ぐ。現れたのは灼熱の昼を避けて夜に活動する砂漠土竜(シャモータルパ)--土と砂の違いはあるが巨大なだけの土竜だった。

 ズブズブと砂の中に引き込まれる感覚は、全身を襲う激痛に塗り替えられた。

 本来ならそのまま流され餌になるはずだったが、彼女はオアシスに辿り着いた、幼子と共に・・・。

 


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