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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第三章
127/141

少し暗め気味です……。

 サウファ・アーレムは魔力に満ちており人の魔力は血に溶け込んでいる。素養は人の魔力を指し、魔技や聖職者は生まれながらに素養を扱う術を持つ者をいう。が、そう多くはいなかった。

 “理”に祈りを捧げ、治療を施し出産を言祝ぐ祈祷所は、素養を持つ者を見出すという役割もあり、見出された者は聖職者か魔技の何れかの道に進むようになっていた。

 しかし、祈祷所はショフェール・クファルを含め人のいる場所にしか存在せず……見出されぬまま、知らぬままに成長しその生涯を終える者も多かった。

 又、知識も何もないため、何らかの切っ掛けで覚醒(メザメ)てしまうと素養をコントロールできずに暴走する者も少なからず存在していた。

 それゆえに、職業冒険者や隊商氏族に組みする魔技や聖職者の中には、素養を持つ者を見出すために各地を巡回する者も混じっている。それでも見落とされる者はいるが……。


 ガドル・パーディアを己の庭の如く知ると言う砂漠の民は、魔技や聖職者を認めてはいない。“理”を絶対の存在とはしないのは、偏に砂漠という環境が大きかった。

 雨が極端に少なく乾いた砂は灼熱の太陽に焼かれ、遮るもののない風は熱を孕み砂を巻き上げて吹き抜けていく。豊かとは言えない(ミドリ)があるのは点在するオアシス周辺のみで、人を含め日々の生活は過酷だったからだ。 

 それゆえか、砂漠の民には素養を持つ者が多い。その誰もが非凡だったが、才を持つと呼べる者は少なかった--。

                         ◆

「なんで、あんたなんかを……」

 こんな筈じゃなかったのに……それが、彼女の最後の思いだった。

 青王都ディアルトは、闘技場(コロニア)という名の処刑場をその中心に持っている。族王ロデ・ケイサルに逆らう者や気に入らない者、時には只の気紛れでここに送られた者で生還できたものはいない、恐ろしい場所だった。

 その場所で彼女は洗濯女--人の形を留める方が少ない屍体から剥いだ衣を洗うことで、日々の糧を得ていた。

 ある時、その彼女の元に1人の妊婦の屍体が運ばれた。

 臨月間近で命を落とすなんて……同性として憐れに思っていると、下の方で動く影がある。ビクリと屍体が跳ね、小さな手が藻掻くように宙を掴む--彼女を含む洗濯女達は、異常な状況での出産を只見守るしか出来なかった。

 生まれ出た赤子は断末魔の絶叫や怨嗟の嘆きに満ちる、醜悪にして劣悪な場所で洗濯女に育てられ--その見目の良さと幼いながらも聡明さゆえに、ある男に目を付けられた。

 変質的な嗜好を持つ貴族を齢5つにして追い払った幼子は、生を受けて初めて見た彼女と共に逃亡を図った。

 砂漠の民でなくても、ガドル・パーディアで生を受けた者は生きていく術は持っている。彼女は息を殺して汚物や汚水を流す水路から楼閣の外にある涸井戸に辿り着くと、夜更けを待って脱出した。

 主の姿がない繋がれたままの駱駝を拝借し、幼子を同乗させてオアシス目指したのは、他の選択肢がなかったからだ。

 異変に気付いた男達--奴隷商人が追いかけてくる。絶望に苛まれながらも立ち止まれず砂漠を駆け抜けて・・・。

 

 

 



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