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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第三章
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アクト・クラトル

 オアシスに着いた4人--勇者一行は、予定通り小休止を取る。ハーブティーを口にし一息つくと、勇者--齢15才の少女はくたりと横になった。

 陽光は容赦なく砂を焼き、今いるオアシスの泉は3分の1程小さくなっている。風がそよとも吹かず遮るものが全くないため、砂の照り返しは慣れている砂漠の民にもキツい……アクトは濡らした布を勇者--美織の額に乗せ、立ち上がり様にシャムシールを抜き放った。

「……悪いな」

 付き従った2人--黒尽くめの部下は呻いて地面に崩れ落ちた。

 有り体に言えばアクトが部下と呼べるのは4人しかおらず、他はそれぞれが集めた者ばかりだった。

 黒尽くめゆえ紛れることができると思ったようだが、体型や身の熟しを見れば違いは一目瞭然。まして片方は、見慣れすぎていた。

「……もっと巧妙にするものです、義兄(アニウエ)?」

 そう問い掛けられマスクを取る。砂漠の民“砂塵の鷲”族長、新王都フロリネフ族王フロリネフ・サクルの実子であり長子ティーダ・サクルは、射殺さんばかりの眼差しで義弟アクト・クラトルを見上げた。

 養子となり一族に名を連ねた少女と見紛う少年は、10年余りの歳月で誰もが一目も二目も置く存在となり、次期族長の座に就いたのだ。

 だからといって認められるわけがない。(ティーダ)は、生粋にして正統な砂漠の民だ。

 英傑と名高い族王アファ・サムに連なるのが“砂塵の鷲”であり、族長(トップ)に立つのが彼の実父。養子(アクト)さえいなければ次期族長、次期族王は彼であったのだから。

「認められぬのは分かっております。が……優先すべき事象は内輪もめではない筈」

「ガドル・パーディアは、砂漠の民の庭--余所者に好き勝手されるのはご免だ」

 科白を無視し眉を顰めつつ立ち上がる。左腕以外に怪我はないのを確かめ、目眩ましに長外套(ハザ)を放った。

「ヴァスリーサ・マクルが奪還できた以上は不要だ!お前は砂漠の民にとって禍でしかない!!」

 養子(アクト)の側には、勇者と名乗っていても足手纏いとしか思えない少女がいる。彼女を巻き込めばクルヴァーティオ浄化は果たせず、その危険性を考えれば避けるか守るしかない……視界が遮られ退く気配を感じ取り、立て斬りと見せかけて真っ直ぐにシャムシールを突きだした。が、貫いたのは彼のハザのみだった……。

                         ◆

「あれ?ここは……」

「裏技を使ったのです。余り時間はないようだ」

 瞬きを繰り返し周囲を見回す美織。オアシスで小休止していたはずなのに、高層ビル群の直中にいた。 ズズズ……地鳴りのような唸りを上げ崩れる砂山のように壊れ沈んでいく光景は、怖気と危機感をもたらすのに充分すぎた。

「今度こそ勝つわ!」

「行けるところまでお付き合いしましょう、勇者殿」




  






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