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「--よ、よろしくお願いします」
「堅くなられる必要はない。我が養父には悪いが、勇者殿に同伴できるのは栄誉の極みだ」
勇者--美織は駱駝の背に揺られながら、駱駝の首半分先を行く大きな背を見るとはなしに眺めていた。
オアシスの天幕で出迎えてくれた砂漠の民“砂塵の鷲”の族長さんは、今は新しく建てられた王都の王様。どうしても離れるわけにはいかないからと紹介されたのが、先を行く青年--次期族長さんらしいです。
20代半ばで背が高くてイケメン。元の世界の有名人なんか目じゃない……そこら辺の男の人なんて論外だし、遙かに格好良くて大人な男性♡--一族と言っていた族長さん達とは全く似てないのが不思議だけどね?
「大丈夫ですか?もう少し進めばオアシスが見える。一息入れましょう」
「先見します--」
耳に心地良い渋い声は、ミーハーじゃないけどついうっとり。配下の人が2人遠ざかっていったのは、危険がないか確かめるらしいです。が……。
駱駝が驚いたように足を止めた。
風がそよとも吹かないため、大気も砂の大洋も薙いだ海のように静かなのが、異変以後のガドル・パーディア。ザワザワと空気が大きく揺らぎ、津波のように立ち上げって流れていく……その光景に目を見張った。
ガドル・パーディアのどこからでも見ることができる廃墟群は、黒々とした高層ビルが乱立している。かつての勇者が赴いたときよりも建築物は減っているらしいが、その大半は時の流れに取り残されたかのようにそこに在った。
ガドル・パーディアの異変--生き物のない只の砂漠になってからは、一層の存在感を際立たせた変化することのない風景の象徴--その高層ビルが1本、又1本と支えを失ったかのように大きく揺れ、萎れる花のように内側へと沈み込んで、大気を振るわせ砂を波立たせて崩壊していく……。
「焦りは敗北を生み後悔は尽きぬ……勇者殿は背負い過ぎのようだ。が、心配は無用--小休止の後、裏技を使わせてもらおう」
崩壊する高層ビルはタイムリミットが近いことを知らせていて、勇者--美織は焦りを隠せない。休息せずにこのまま--顔に出ていたのか、次期族長アクトは囁くように科白を紡いだ。
口の端だけを上げた笑みはセクシーすぎて目眩を覚える美織。程なくオアシスが見えとりあえずの小休止を取る勇者一行だった・・・。