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「初めまして、サラーヴ・タヴットへようこそ。勇者様♡」
それが最初に耳にした科白だった。
勇者として召喚されクルヴァーティオ化した迷宮の浄化に赴いたが、果たせず転移ばされた。
着いた先は手入れが行き届いた庭園。頬を撫でる風は冷たさを含み、どこまでも視界が広がって遠くに浮かび動くのは雲--彼女は、空の上にいた。
パニックになる思考を落ち着かせたのは鈴を鳴らすような子供の声。目線の先に佇むのは黒一色の鬱陶しいくらいのゴスロリ衣装を身に纏った--自らを魔王と名乗った美少女だった。
「“世界”様のお話を覚えてるかも知れないけど……勇者に干渉するのは禁忌ね。“理”を歪めかねないペナルティーよ?」
見た目を覆す、凄まじい重力を伴う殺気に逆らうことは不可能で、何故かお茶をすることになった彼女は記憶を辿り……。
『--人の助力は赴くための補助であり微々たるものだ。クルヴァーティオ浄化は勇者にしかなしえない』
「もし、浄化できなければどうなるの?」
『新たな勇者が召喚されるが……サウファ・アーレムそのものに危機がもたらされるだろうね、それぞれの迷宮を管理する魔王にも影響が出る』
「魔王は何もしないの?かつては勇者だったんでしょ!」
『迷宮と魔王がセットであるように、クルヴァーティオと勇者もセットなのだよ……それゆえ、クルヴァーティオ浄化・勇者への干渉は禁忌なのだ。最大のペナルティーと言えよう』
そのような会話をしたことを思い出した。
「だったら……貴女は?これは干渉じゃないの!ペナルティーが--!!」
「ふふ……心配してくれるのね♡でも、大丈夫よ?だって、貴女が居城に転移したのはあたしの意思じゃないもの」
「ぇ……?」
首を傾げる勇者に美少女はにっこりと笑った。
話を聞けば魔人シャリ・アハ--廃墟群の主が独断で行ったことなので“理”は反応せず、魔王は己が迷宮に限って“理”に準じる権威と能力を持つらしい。そのため、美織がサラーヴ・タヴットにいる限りは--魔王シャハルークス・エリラーの管理下にあり、ペナルティーは発生しないのだそうだ。
「あたしは魔人シャリ・アハに言ってみただけ、十二分以上の働きをしてくれたわ。だから、貴女も協力してね?勇者に相応しい武防具は揃えて上げる--次にアトラール上空に到達するには時間があるから、せっかくの実力を鈍らせないで。ね?」
その続けられた科白に勇者--篠頭美織は頷くしか出来なかった・・・。